ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第118回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞 受賞インタビュー

撮影=石塚雅人

金子茂樹

これからもホームドラマや群像劇でセリフにこだわっていきたい

脚本賞受賞おめでとうございます。「日常を描くホームドラマとして完成度が高い」「ヒロインの夫、息子、父親とダメ男ばかりの会話をテンポ良くコミカルに描き、センスの良さが光った」と絶賛されました。

ありがとうございます。ドラマの企画がスタートしてから脱稿するまで、まる1年かかり、苦労しながら書いたので、こうして賞という形で評価してもらえ、報われた気がします。この作品のことをずっと考えていた長さもありますし、毎回、万里江(小池栄子)たちの家族げんかを描かなきゃいけないので、それを考えるのが結構大変でした。離婚話など、深刻な問題になってくると、プロデューサーさんから「今回は笑いが足りない」と指摘されるなど、手こずった点が多々ありましたね。

金子さんは「プロポーズ大作戦」(2007年フジテレビ系)、「世界一難しい恋」(2016年日本テレビ系)などを執筆し、キャリアも長く、「俺の話は長い」(2019年日本テレビ系)で向田邦子賞を獲得するなど、評価されていますが、台本の直しはあるんですね。

逆に最初に出したものがそのまま通ったら嫌ですね。まず第一稿をプロデューサーさんに見てもらって感想を聞いて直してまた見てもらって…と、キャッチボールしながらホン(脚本)が面白くなっていくという経験を、これまでしてきたので。だから、プロデューサーさんにあっさり「これで決定」と言われると「いやいやいや、そんなはずない」と粘っちゃう。そのくせ「こう変えた方がいい」と言われた瞬間はムッとするし、面倒くさい脚本家ですよね。


1年かかったということは、1カ月に1話ぐらいのペースだったのでしょうか。

第1話が完成するまでには3、4カ月かかりました。そこで深掘家など、一人一人の人物や関係性が出来上がると、ペースが速くなり、一応、トータルでは金子史上最速に…。主演の小池栄子さんをはじめ、そうそうたる役者さんがそろってくれ、セリフの量がちょっと尋常じゃなく多いので、台本をなるべく早く渡そうという思いではいました。「俺の話は長い」のときに小池さんが冗談交じりに「台本、早くください」とコメントしていた動画を見たんですよ。それで「今回は早く」と意識していたんですけど、なかなか手強い作品だったんで、やっぱり時間がかかりました。


脚本とドラマを見比べると、小池さんや夫・悠作役の吉岡秀隆さんは「てにをは」まで完璧に台本どおり。父親・達男役の小林薫さんは臨機応変に変えているなど、役者さんによって違いますね。

僕はセリフのテンポを一番大事にしているので、「ト書き」はほとんど省略しちゃうんです。そこは全部、役者さんと監督にお任せしちゃうので、現場は大変ですよね。例えば、ご飯の準備をする場面なら、台本に書いてないけれど冷蔵庫を開けながら言わなきゃいけない、言った後はお皿をテーブルに持っていかなきゃいけない。それを今回、埋めてくださった役者さんたちはすごいなぁと思いましたね。

小林薫さんは、第1話で「この家の頭金を出したのは俺だぞ」と言うところも、台本とは語順を変えていましたが、やはり自分の立たせ方を知っている方だと思いました。


今回、GP帯連続ドラマ初主演となった小池栄子さんはいかがでしたか。

「俺の話は長い」でも素晴らしかったけど、さらに感情の機微を表現する演技に磨きがかかって、押しも押されぬ大女優になられましたよね。万里江の人物については、おかしい男3人が万里江を困らせているという構図でありつつ、それを許している彼女が実は一番、変なんじゃないかと感じながら書いていました。

終盤、離婚する、しないで、万里江が夫の悠作に「あなたがダメだから、私が輝けたのよ」と反転攻勢をかけるところが、やっぱり変だという感じもしたし、それを演じ切れるのは小池さん以外にいない。あの場面は自分で書いたのに笑ってしまいました。吉岡さんと小林さん、息子・順基役の作間龍斗さんも素晴らしく、本当に皆さんの芝居の力で作品を押し上げていただきました。


反抗期が続いているような高校生を演じた作間龍斗さんは、いかがでしたか。

作間くん自身は素直な子で、家族ともけんかしたことないぐらい仲良しということですが、クランクイン前、プロデューサー、監督も含め一緒にご飯を食べたときのときの印象で、生意気そうな顔もできるところが良いなと思ったんですよね。実際、小池さんたち演技達者な大人の中に入っても遜色なく、憎たらしい高校生に仕上げていたので、すごいと思いました。しかも、大河ドラマ「どうする家康」(2023年NHK総合ほか)では全然違う豊臣秀頼を演じ、この2作が同時に放送されたわけで、「これから彼はすごいことになりそうだ」と才能を感じましたね。


妻・母・娘である万里江の奮闘ぶりが面白いドラマですが、世間では、夫より収入が高く息子や父親も扶養しているという女性は少数派ですよね。なぜ主人公にしたのですか。

それは、櫨山裕子プロデューサーが万里江と同じように働きながら息子さんを養っていて、最初に企画を立てるときに「金子くんが書く夫婦げんかを見たい」と言われ、それなら書けそうかなと。僕も結婚しているんですけど、本当に夫婦げんかが絶えないので…。また、ホームドラマとして、妻がダメ男たちを引き受けて文句を言いながら養っていくというドラマはあまり作られていないので、挑戦としては面白いかなと思いました。


金子さんには、11年間漫画を描いていない悠作のように、男性が働かなくたっていいじゃないかと主張したい気持ちがあるのでしょうか。

そうですね。毎日、家でも悠作と変わらないようなことを言っています。「働かなくていいよ」と言われれば、いつまでも働きたくない。特に今は連ドラが終わったばかりだから、しばらく働きたくないですね。

でも、食わしてもらうことにも才能がいるんですよ。素人が手を出せない「働かないための技術」みたいなのものがある。過去にヒモをやっていたんですけど、女性に対してどこまでも下手に出るのではなく、どこかで均衡を取らなくてはいけない。ダメ夫は常に嫁から怒られ言いなりになっていると思われがちですが、それは逆にリアリティーがないと思います。だから悠作のセリフはすらすら書け、筆が走りすぎて止められたぐらいでした。まぁ、非常に情けない話で、そんな人ばかり増えたら日本は潰れちゃいますから、僕以外の男性は頑張って働いてもらって…(笑)。


投票で「金子さんにはダメ男シリーズを書き続けてほしい」という意見も寄せられました。やはり今後も、その点とホームドラマにはこだわっていきますか。

やっぱりホームドラマが一番好きですね。ホームドラマや群像劇で、とにかくセリフにこだわっていきたいんですよね。ドラマの仕事を始めたときはラブストーリーの発注が多く、得意じゃないのに…と思いながら書いていたんですが、やっと好きなジャンルを描かせていただけるようになったので、なかなかこういった企画が通る場はないし、脚本を完成させる大変さは感じつつも、こだわっていきたいなと思っています。いつか、ダメ男が出ない家族ドラマも描いてみたいですね。


これからドラマを描いていこうという若手の脚本家さんにメッセージをお願いします。

いや「働きたくない」とか言っているのに提言できる立場でもないんですが(笑)。ずっとテレビ離れ、ドラマ離れと言われていますが、一生懸命作っていたら気付いてくれる人もいるし、逆に放送、配信される場は増えて本当に面白いものは広まりやすくなった時代だとも思うので、諦めず作っていくしかないかなと思います。

若い人には、諦めないでほしいですよね。僕もデビューしたての頃は挫折もいっぱい経験したし、「思っていたのと違う」と何度も思いましたけど、粘ってしがみついているうちにドラマ作りに熱意のあるプロデューサーさんたちと出会え、あの頃「こういうのを書きたい」と思っていたようなものができるようになったので…。だから、最初に話したように「面倒くさい」と思われるような脚本家がもっと増えれば、テレビ全体のためにもいいんじゃないかなと思います。

(取材・文=小田慶子)
コタツがない家

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民放GP帯連続ドラマ初主演の小池栄子と金子茂樹脚本で描く、“笑って泣けるネオ・ホームコメディー”。44歳、やり手のウエディングプランナーの万里江(小池)は、若い頃から恋に仕事に全力投球で、欲しいものは全て手に入れたはずだった。しかし、気付けば夫・息子・父、3人のダメ男たちを養う羽目になる。

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