上白石萌歌主演「デジャヴ」
初めてのことなのに、前にも経験したことがあるような気になる、デジャヴ(既視感)という現象。この作品は、デジャヴの世界に迷い込んだ上白石のおびえた表情と、父親役・鶴見辰吾の狂気が印象的なSFとなっている。また、タイトルが映し出されるオープニングもホラーのような仕上がりになっており、ぐっと世界観に引き込まれる。
上白石が演じるひかりは、ある朝、デジャヴのような感覚に陥る。しかし、同じ光景がその場で繰り返され、いわゆるデジャヴとは違う様子。さらに、母・凛子(亜呂奈)との会話も、どこかちぐはぐしていて成り立たない。
朝食後、脳科学者の父・正隆(鶴見)の書斎の前を通りかかったひかりは、物音を耳にする。おそるおそるドアを開けると、覆面をかぶった男が部屋を物色していた。ひかりの姿に気が付いた男は、近くにあったゴルフクラブを手に取る。しかし、ひかりが目を開けると、男の姿はすでになかった。
その夜、ひかりは、再び書斎からの物音を聞く。朝起きたことを思い出したひかりは、書斎に行こうとする凛子を止めるのだが、例の覆面の男は再びゴルフクラブをひかりに振り下ろそうとする――。目を覚ますとひかりは、真っ暗な部屋でベッドに横たわっていた。そして目の前には、様子のおかしい正隆がいた。
何がデジャヴで何が現実か…
撮影後の上白石のコメントで「毎日毎日汗だくで、声も極限まで出して、すごく全身を使って自分の全てを消耗していくような撮影でした」とあるように、上白石が何度も何度も叫び、とにかく苦しい表情を見せている。
ひかりは、どうしてこんなことに巻き込まれているのか…。なかなかその真相が分からないままストーリーが進むため、不安にかられた。さらに、“デジャヴ”のたびに上白石の本気の絶叫が繰り返されるため、何倍にも膨れ上がった恐怖を感じた。
また、上白石が「誰がいい人で、誰が悪い人なのか分からない」と言うように、脳科学者の父も、その同僚も、そして母までもが、この事件に関わっているのではないかと怪しく思えてくる。
ひかりの目を通してその世界を見ているはずなのに、視聴していても何がデジャヴで、何が現実か判別がつかないような、まさに奇妙な感覚に陥る作品だった。