「『負け』というのはその人なりの解釈を経て人生に転じていくもの」怪物・井上尚弥と戦った“敗れざる者たち”の姿に感じたこととは<「怪物に敗れた男たち」高橋良美Pインタビュー>
「井上尚弥と戦うことを薦める奥さんってすごいなと(笑)」
――今回取材された二人のボクサーについてもお話を伺いたいのですが、まずは佐野友樹さんが現在されているお仕事の話は非常に驚きました。密着やインタビューを通して印象的だったエピソードをお聞かせください。
高橋P:コロナのこともあってロケ隊も最少人数で行っていたため、私は佐野さんの仕事現場への密着には立ち会っていないんですが、松田ジムでのインタビューには参加しましたし、撮影前のやり取りなどもさせてもらっていて。
電話でのやり取りが多かったんですが、佐野さんは本当に(カメラが捉えていた)あのまんまの方で。毎日お忙しい中でも、私たちに対してすごく真摯に対応してくださいました。
佐野さんご自身は、こういう取材がいつか来るとは思っていたそうなんですが、「自分はチャンピオンじゃないのに取り上げてもらえて、こういう形で自分の“生きざま”のようなものを見てもらえることが嬉しい」と仰っていただきました。
実際に放送をご覧になってどう思われるかはわからないですが、「ベルトを獲れなかったボクサー」でありながらフィーチャーされたことが非常にうれしかったそうです。
――佐野さんの奥さまとのお話も、非常にグッと来るものがありました。
高橋P:奥さんとのエピソードで印象的だったのは、やっぱり「日本タイトルを獲ることよりも井上尚弥と戦ってほしい」と背中を押したことですよね。(夫である佐野さんが)右目のけがでボクサーとしては選手生命が残りわずかという時に、井上選手と戦うことを薦める奥さんってすごいなと(笑)。実際佐野さんも奥さんの言葉があったから決意されたそうですし。
ベルトを獲った試合で田口が見せた驚きの行動とは?
――続いて田口良一さんについてですが、どんな対戦相手であっても「井上尚弥より強い相手ではないだろう」と思いながら戦っていたという逸話はボクシングファンならばよく知るところです。一方で、あの一戦に至る中でスタッフ陣も大きく成長していったという話は興味深かったです。
高橋P:インタビューでも仰っていましたが、当時高校を卒業したばかりの井上選手にスパーリングでボコボコにされたことが田口さんにとってすごく大きかったそうで。そこでの「大泣き」があったからこそ(日本タイトル戦で)井上選手と最後まで戦えたし、その後世界チャンピオンにもなれたっていう話は印象的でしたね。
田口さんは世界チャンピオンになった試合で、「勝ったけど前日の井上選手の試合(※世界最速となる2階級制覇を成し遂げたオマール・ナルバエス戦)にはまだまだ及ばない」と思って、悔しさから (勝ち名乗りを受ける際に)首を振っているんです。その映像を今回実際に見せることができたのも、番組化した価値があったなと思いましたね。
田口さんのお話はすごくロジカルで。インタビューに向けて(記憶の整理など含めて)準備はされていたと思うんですが、井上選手との試合から8年くらい経っているのに「この戦いがあって自分がこうなっていった」という言語化がすごくお上手でした。
佐野さんもそうだったのですが、まるで昨日のことのように(試合に至るまでの流れを)鮮明に語っていただいたので、今までのボクサーのイメージとはちょっと違うものを感じていました。
――やっぱりボクシング界出身で現在タレントとして活躍されている方々は、なかなか強烈なキャラクターの方が多いですからね(笑)。
高橋P:そうなんです、私の中でのボクシングやボクサーのイメージはまさにそういう感じだったので(笑)。井上選手の存在があって少しずつ(イメージは)変わってきていたんですが、今回の田口さんのお話を通してより変わっていきましたね。
3月22日(火)夜9:00-10:00
BS12 トゥエルビにて放送
https://www.twellv.co.jp/program/documentary/bs12-sp/archive-bs12-sp/bs12-sp_08/