「『負け』というのはその人なりの解釈を経て人生に転じていくもの」怪物・井上尚弥と戦った“敗れざる者たち”の姿に感じたこととは<「怪物に敗れた男たち」高橋良美Pインタビュー>
「ジュニアさんがいたからこそ番組が引き締まる一方で開かれていった」
――今回ボクシングに精通している千原ジュニアさんが「案内人」として番組に関わられたことも非常に大きかったと思うのですが、ジュニアさんの現場での様子などはいかがでしたか?
高橋P:ジュニアさんは、私たちには見せていないですけど相当「予習」をしていたと思うんです。佐野さんと田口さんの井上戦における試合内容もそうですし、お二人のキャリアとか細かいところまでを、手元に資料がないのに映像を見ているかのように事細かに話されていて。
すごくお忙しい中、私たちのような今まで会ったこともないスタッフが作る単発番組で、あそこまで準備をして臨んでくださったことが個人的にうれしかったですし、ジュニアさんだからこそ引き出せる言葉やお話もあったと思います。とは言え、佐野さんも田口さんも緊張はされていましたけど(笑)。
ある程度硬い題材で、なおかつ試合の映像もふんだんには使えないという制限があった中で、この番組はジュニアさんのインタビューが一つの目玉コンテンツでした。コロナ禍で二人への密着があまりできないという事情もあって、「インタビューでどう見せるか」ということは重要なファクターでした。
また、そこをジュニアさんにやっていただいたことで番組が引き締まる一方、(視聴者に対して)開かれていくという側面もあって。この番組はボクシングに詳しくなくても全然見られると思うんです。
ガワだけで言うと「硬派なスポーツドキュメント」って感じなんですが、中で語られていることで専門的な話は意外と少なくて。もちろんジュニアさんと佐野さん、田口さんの話には技術的なことも出てくるんですが、ジュニアさんはそこだけにならないように話を展開してくださいました。そこのバランスは私たちも少し工夫しましたね。
一番話を聞きたいのは「すべてを失った」あの選手?
――今回出演された佐野さん、田口さん以外にも、河野公平さんやオマール・ナルバエスら、井上選手と対戦したボクサーのエピソードも出てきました。もし続編を制作することがあれば、次回はどの「怪物に敗れた男」に話を聞いてみたいでしょうか。
高橋P:この番組は多分、井上選手と戦った上で引退したボクサーでないと口を開いてもらえないと思っていて。となると、話を聞ける人は結構限られるんですよね。森合さんが番組の中で仰っていたように、もしナルバエスが引退して、森合さんがナルバエス親子に取材する機会があったら、その様子を映像化できたらいいなと思いますね。
「敗者」という意味では、ジェイミー・マクドネル(井上選手がWBA世界バンタム級のベルトを奪取し、日本人最速の3階級制覇を成し遂げた試合の対戦相手)にも話を聞いてみたいですね。誰もやりたがらなかった井上選手に挑んだという時点ですごいですからね(※井上選手はスーパーフライ級時代、同階級のトップ選手から対戦を拒否され続けていた)。
――その結果、1RKO負けですべてを失ってしまったというのも、勝者と敗者のコントラストが際立つボクシングのシビアさを物語っているようにも思います…(笑)。
高橋P:あとは、井上選手ではない形、例えばボクシング以外の競技で “モンスター”と呼ばれるような、それまでにいなかった傑出した選手が現れた時、そこに挑んだ選手(を取材する)というアプローチは続けられるのかなと思います。
とは言え、この企画は森合さんの取材があってこそなので。今回私たちはそこに映像という形で参加させていただいたという気持ちですね。
3月22日(火)夜9:00-10:00
BS12 トゥエルビにて放送
https://www.twellv.co.jp/program/documentary/bs12-sp/archive-bs12-sp/bs12-sp_08/