特に感銘を受けた松本人志、ベートーヴェンとの共通点は「改革者であり原点」
――音楽とお笑いの共通点などあれば教えてください。
クラシック音楽でいうと、落語に似ている気がします。特に古典落語の寄席に来たお客さんは、演目のフリからオチまですべてわかっていますよね。クラシックも一緒で、クラシックファンは最初から最後までどんな演奏がされるか知った上で、答え合わせのような感覚で聴くわけです。みんながわかっていることを前提としたエンタメという点で、クラシックと落語は共通している。なので、クラシックアーティストとして落語にシンパシーを感じていることもあって、新幹線で移動している時などには、(古今亭)志ん生さんや(桂)枝雀さんの落語を聴いています。
――様々なバラエティに出る中で、特に感銘を受けた芸人さんはどなたですか。
松本(人志)さんです。でも、共演させていただく機会が多く、松本さんに意識させてしまうのも気が引けるので、あまり言いたくないんです。だから、どちらかが死ぬ時に「一番尊敬してました」と伝えたいと密かに思っています(笑)。
――松本さんをクラシックの作曲家にたとえると誰でしょうか。
ベートーヴェンです。改革者であり原点というか。松本さんは「ごっつええ感じ」などですべてをやり尽くし、「こうしたら人が笑う」という人間の作用みたいなものをほぼすべて見つけちゃった人だと思うんですよ。「新しい」と言われる笑いは今もたくさん生まれていますが、どこかの要素を摘まむと、「『ごっつ』のあのコントに似てるな」と言えちゃう気がするんです。
クラシックでいうと、それはベートーヴェンなんです。ベートーヴェンが大抵のことをやってしまったから、彼の作品と被らない工夫をし始めたのが、ベートーヴェン以降のクラシックの歴史だと言っても過言ではありません。どんなにアバンギャルドな曲を作っても、もとを正すとほとんどの型はベートーヴェンが既にやっているという結論に帰結する。ベートーヴェンを超えなきゃいけないっていうコンプレックスの中に近代音楽史はあるんです。離れようとするんだけど、セオリーをすべて網羅しているために離れられない…。それがベートーヴェンの音楽であり、松本さんの笑いだと思っています。
文、撮影=こじへい