長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『駅徒歩いっぷんの家』(フジテレビ)をチョイス。
駅から近くて、広くて、綺麗で、安い物件を探している「駅徒歩いっぷんの家」
駅徒歩の距離というのはやっぱり大事である。かつて西川口駅から徒歩22分のアパートに住んでいた頃は帰るのも出るのも面倒くさかったし、駅チカは運動不足になってしまう、というのはよく言われるけども、駅トオでは引きこもりがちになってしまって、結局、健康によくない。ああ…疲れた…今すぐベッドに沈みたい…という夜、最寄り駅に着いてから22分歩かなきゃならない絶望。また、これは距離とは関係ないのだが、隣にゲーム実況者が住んでいて毎晩大声を上げていた。
そこから荻窪12分、阿佐ヶ谷6分と引っ越しのたびに駅から近くなっていったのだが、やはり駅は近ければ近いほどいい。こう思ってしまうのは俗っぽくて悔しい、しかし、そうなのだ。西川口22分に住んでいた頃は、「音楽ゆっくり聞けるし」と余裕をこきながらごまかしていたけど、実際の生活はただ地獄であった。「散歩が好きだから」とはいっても駅から家までの道なんて一瞬で飽きるし、「駅から22分も離れれば静かで良い」と宣ってみても、前述のとおり隣からゲーム実況の大声とリュウの「昇竜拳!」という声が聞こえてくるのだから決して静かではない。
駅トオより駅チカのほうが絶対にいいという事は、人生で4度目の引っ越しに取り組んでいる現在、よく理解しているはずなのに、なぜだかSUUMOを見ているときはそのことを忘れ、「徒歩16分か…いけるな…」などと思ってしまう。『花束みたいな恋をした』で有村架純と菅田将暉が調布30分の良部屋(よべや)に住んでいたせいもあるのだろう。作中で彼らは、片方が調布駅に到着する時間に待ち合わせ、家までの帰路をふたりでコーヒーを飲みながら楽しんでいた。なんて素敵なのだろう……などとほだされて実際に調布30分なんかに住んでしまったら地獄だ。気を強く持て、帰り道でわざわざコーヒーなんか飲まない。駅トオのロマンよりも、駅チカの利便。本当に悔しいが、そう認めなくちゃならない。
『駅徒歩いっぷんの家』はその名の通り、駅徒歩一分の物件に住む人を募り、家にお邪魔させてもらうという番組。場所は笹塚、神田、森下の3スポット、出演者はノブコブ吉村、ずん飯尾、そして井上咲楽。一風変わった物件に、一風変わった住人たちの人生までをも掘り下げていくバラエティだ。
特に印象的だったのは、笹塚1分の物件。なんと笹塚ボウルの上にある、秘密基地的な空間で、あれはかなり羨ましかった。個人的に笹塚には思い入れもあって、週に1度は必ず行ってるんで、笹塚駅に降り立った番組スタッフのカメラも、改札前から見る笹塚って空間が閉じていてあんま映えないんだよな~、分かる分かる、などと思いながら非常に楽しく見た。家そのもののカッコ良さは森下の物件に軍配が上がる。12平米のワンルームで、土足で、部屋の窓から出入りできる、まるでガレージに住んでいるかのような感覚。将来的にはガレージに住みたいと思っているので、住人の方がこの物件をもってして『終着点』と表現していたのには自分も頷けた。結局、カッコいい部屋に住みたいというのが第一にあるから、駅徒歩のことをすっかり忘れてしまうのだろう。
新しい家は、未だに見つからない。駅から近くて、広くて、綺麗で、安い物件を探しているが、しかし、家探しというのは妥協の積み重ねだ。もし、ひとつ妥協するとしたら……なるほど、調布30分か……やっぱ、良いよなあ……。調布の街なら、30分歩くのも苦じゃないかもしれないし……。コーヒーとか飲みながら……。
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