美大在学中から音楽活動をスタートしたシンガーソングライター・小林私が、彼自身の日常やアート・本のことから短編小説など、さまざまな「私事」をつづります。今回はミュージシャンがインタビューでよく聞かれる「人生のテーマ」についてのエッセイです。
人生のテーマ。皆はある?俺はないかな。
この連載を続けてきて、また新たに別の連載も始まった。月三本の原稿を書かなければならない。まあ、それはいい。強制力がなければやらないことは沢山あり、物を書くという動作は俺にとって、どちらかというと強制されなければやらないことだ。
嫌というわけではない、嫌ならそもそもやらないだろう。人生は無数にあるやりたくないことの中から少しでもマシな選択をする道のりなのだ。一切何も強制されずに生きていいのだとしたら俺は何をするだろう。まあ曲は書くかな。漫画は読むしゲームもする。飯は食わんだろうな。
コラム、エッセイ、なんでもいいが、自分で書くようになると人のそれもよく目につくようになる。初めてギターを買った日から街中でケースを背負う人がハッキリと見え出すように。ミュージシャンに限っても、友人や先輩後輩、見たことある人らが、歌以外でへーそんなこと考えてたんだと思う。思いながら、皆真剣だなと思ったりもする。
俺は趣味で音楽をやっている。ワンパンマンのサイタマみたいなもので、見返す為の手段、成り上がる為の階段、生きていく為の仕事、そういった軸になるようなモチベーションがない。曲書くのがめちゃめちゃ面白いだけ。面白くなくなったらやめるだけで、それならバイトしながら就活するだけだ。今職業になっていることの方が不思議なのだから。
ライブもそうだ。俺の音楽はライブで聞いてこそ、みたいな思いはない。最初は「なんか皆がやってるやつ、やろか」くらいの気持ちで始めて、この職業を続けていく中で出来た友人らが出ていると、なんだか遊びに誘われなかった気持ちになる。それは寂しい、寂しいから出てる。
デカい箱ってサウンドチェックしにくいから全然出たくないんだけど、なんか仲良くしてくれる人達のほとんどが凄いスピードで売れていくせいで自ずとデカ箱に呼ばれる。まあこれはラッキーと言えばラッキーだ。
俺のDMに音源を送ってくれる人達も段々芽を出し始めていて、良いことだ。凄い奴だと思われたいけど凄くなる為に頑張りたくはないので、俺を凄いと一時でも思ってくれた人達が凄くなって、その甘い汁だけを啜る妖怪になりたい。「あんなに凄い人達が凄いって言うんだから、小林私って凄いんじゃなかろうか」と誤認させて、その上に胡坐をかきたい。
小学生の頃から俺は凄い奴になるだろうなという確信だけがあって、成功するための何をも持ち合わせていないのに輝かしい未来だけが見えている。俺個人としては全く無根拠でも問題ないのだが、周囲からすればそうではないから、数字や反応や口コミで根拠らしいものを用意しなければならない。
だから本当に、最悪ちょい嘘でいいから有名人には俺のことを褒めるポスト(ツイート)とかしてほしい。頼んますよ。「watashi kobayashi is genius musician.」とかでさ。別にそれでやることや気概が変わるわけでもなければプレッシャーを感じるわけでもないし。こっちは準備出来てるんすよ、一番格好良い返し方したいんすよ。
「かの有名なあのアーティスト達がこぞって小林さんのことを褒めていますが、どういうお気持ちでしょうか?」
「あんまり気にならないね。ボクはボクの出来ることをやるだけサ。おっと、デートの時間だ、音楽の女神様とのね」
言いてえ~(笑)
天才ぶりてえな~。人並みくらいの頭脳しかないし人並み以下しか動けないしそれなりに頑張らないと曲も文も絵も書けないけど、なんか出来ちゃうんすよね(笑)、みたいな態度とりてえ~。
本当はフリーレンくらいの時間感覚で生きたい。最近本当思う、みんな急ぎすぎ。15歳くらいでギター触って17歳くらいから曲作ってて19歳辺りでYouTube始めて、まあそこそこ知名度上がり出すのは10年後くらいかな~とか思ってたし。今の知名度やりすぎだもん。バレるって、実力がないのが。10年くらい下積みして「なんかウメエ奴いる」みたいな見つかり方を想定してた。絶対その期間絶望しなかったと思う、Fどころかパワーコードどころかチューニングの意味も分かってなかった段階で「1年後楽しみだな~」って思ってたし。
何の話してたっけ。テーマか。なんであの書き出しにしたかというと、何書こうか考えながらミュージシャンのコラムとか読んでたらみんなそういうこと書いてたからだ。そんで俺はそういうこと書けないからだ。
夢とか目標も無いしな~、一つ前に書いた曲より少しだけは新しいことしよう、くらいの気持ちはあるけれど。インタビューで困るからな、こういうの。毎回思うわ、俺みたいなやつ他にいなかったん?一人二人くらいいただろうに。今度から嘘人生のテーマ作っとこうかな。何がいいと思います?困った時は大体「子どもの笑顔見たいんで」とかは言ってるけど、もうちょっと信憑性あるやつ作っときたいな。
好きなもの屋さん系とか。あ、チュロス屋さんとか良いな、俺チュロス結構好きだから。あとは無気力イケメン名探偵の助手の女子高生にもなりたい。「も~今日もお客さん来ないじゃないですか~」って言いながら事務所の掃除したい。あとなんか好きなものあるかな。水かな。
無気力イケメン名探偵の助手の女子高生としてチュロス屋を営みながら水を飲む。
今後のインタビュー、これでいきます。
●ダ・ヴィンチWeb
https://ddnavi.com/serial/kobayashi_watashi/
小林私(こばやし・わたし)
1999年1月18日生まれ、東京都あきる野市出身のシンガー・ソングライター。
多摩美術大学在学時に本格的に音楽活動を始め、自室での弾き語り動画をきっかけに注目を集める。YouTubeでのユニークな雑談配信も相まって人気を博し、現在チャンネル登録者は16万人を超える。2023年、キングレコードのHEROIC LINEから、メジャー第1弾となる3rdアルバム『象形に裁つ』、8月には弾き語り原作アルバム『原作』をリリース。
音楽のみならず、執筆・描画など多彩な才能を生かして活躍の場を広げている。
HP:https://kobayashiwatashi.com/
Twitter:https://twitter.com/koba_watashi
Instagramhttps://www.instagram.com/iambeautifulface/
YouTubehttps://www.youtube.com/@watashi_kobayashi
YouTubehttps://www.youtube.com/@watashi_kobayashi_official
音楽配信:https://fanlink.to/watashi_music
3rd ALBUM 『象形に裁つ』
https://kobawata.lnk.to/3rdAL