長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『松嶋菜々子と行く 最新パリ旅』(フジテレビ)をチョイス。
パリへのあこがれ『松嶋菜々子と行く 最新パリ旅』
パリに行きたい、といつも考えている。特に深い理由もない。パリってめちゃめちゃシャレてるから行きたい、というミーハー極まりない理由ただひとつで俺の身体はパリを欲しているわけだが、もっと言えば、パリで恋愛がしたいのだ。少しでもフランス映画に触れてみるとたちまち、パリでの恋愛が羨ましくなる。次点でニューヨークだ。香港も良い。東京だって悪くないのだが、もう知りすぎてしまった。私はパリもニューヨークも香港もロクに知らない。知らないうちに、行きたい行きたいロマンスしたいと遠方から軽率にはしゃぎたてておくことが大事。知らない者の特権である。
そんな私の需要を満たしてくれる番組を見つけた。『松嶋菜々子と行く 最新パリ旅』。フリーペーパーの表紙に躍っていそうな文言だが、その名の通り、松嶋菜々子が5年ぶりにパリを訪れる、上品極まりない番組だ。「こんな言葉があります。どんな芸術作品も、パリという街の素晴らしさには敵わない」と語られるほど、美しいパリの街並みが捉えられている。老舗のパティスリーや、有名パティシエの路面店、18世紀の印刷紙を復元しインテリア雑貨に応用する雑貨屋、アンティーク生活用品店、国立公文図書館にカルティエ本店……。次々に登場する風景は、まさに私のイメージするパリそのもので、同時に、自分にはまったく関係がないな、という、どこか疎外感を味わわされる。しかし、何かに疎外されるというのは、もちろん悲しいことである反面、どこか喜ばしい、私の自尊心を喜ばせるようなところがある。
私が高級ビジネス街を散歩するのが好きなのも、”疎外されたい”という欲求が渦巻いているからに他ならない。コーヒー１杯1000円を超えるような高級店をちらりと見ては「うわやべ〜」と驚き、すれ違う人々のファッションに魅了され、そびえ立つビルの高さに圧倒される。もちろん、それらの感情はすべて本物でウソ偽りはない。しかし、”自分より格の高い”と考えるものに敗北する気持ち良さというのは、恥ずかしながら、私の中に、確実に存在している。もしかすると、いや、もしかせずとも、本当は敗北したとも感じていないのだろう。そういった自分の性質を時折見出しては、何ともいえぬ恥ずかしさに襲われる。それはなんだか、とてつもなく幼稚であるような……。
私は、あこがれを演じているだけなのだろうか。こんなところで皆様を巻き込んで考えるわけにもいかないので、もっと単純な話をしていた冒頭に戻ろう。パリに行きたい。番組には、パリなのだから当たり前だが、パリの住民と思われる方々も多く映っていて、パリに、住む？あの、すみません、パリに、住むというのは一体、どういう感じなんでしょうか？と聞いてみたくなる。パリに住むということは、パリに住居を借りて、窓を開ければパリがあるということだ。そんなことが、現実に起こりえるのだろうか。毎日なにを思うのだろう。もし私が、パリに住んだとして、何がしたいだろうか。やっぱり映画のようなことがしたい。私のパリは、何と言っても『RONIN』だ。大好きな映画。尾行に裏切りに銃撃戦にカーチェイス。アタッシュケースを巡って殺し合いを繰り広げるなら、やっぱりパリしかありえない。
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