杉咲花、原作にはないオリジナルキャラに「今までで一番難しい役」
「悪人」(2010年)や「怒り」(2016年)など映画化が続く、ベストセラー作家・吉田修一の「犯罪小説集」を映画化した「楽園」。原作小説の中の「青田Y字路」と「万屋善次郎」を組み合わせた本作の中で、原作にはないオリジナルキャラクターを演じたのが杉咲花だ。物語のベースとなるのは、12年前に起きた少女失踪事件。その少女と事件直前まで一緒にいた親友の湯川紡(ゆかわ・つむぎ)役として、彼女の抱えるトラウマ、後悔、罪悪感といった複雑な思いを繊細に演じきった。
本番になると頭が真っ白に
――紡はとても複雑な難役だったと思いますが、どう取り組もうと思われましたか?
今までで一番難しい役でした。台本を読んでいて、物語の雰囲気や紡という役の感情を漠然とは理解できるのですが、本当に紡のことを分かって演じていたのかと聞かれると、最後まですっきりしなくて。自分の中でイメージはできているのですが、いざ本番になると頭が真っ白になるというか。役のことを完全に分からないまま現場に入るのは初めての経験だったので、怖かったです。
――その杉咲さんが抱いた“分からない”という感覚が、紡の過去のトラウマに対する生き苦しさとつながっている感じがしました。
映画の最後で紡が「分からなくていい」というセリフがあるのですが、そこに影響を受けたのもあると思います。これまでは撮影の前日までに役を理解し、自分の中でかみ砕いた状態で現場にいかなければならないという思いが強かったのですが、今回は分からないまま現場に行ってみようという新たな挑戦がありました。そうしてみると、まさかの感情になることもあって、分からないことはダメではないんだということを学びました。
――監督は「64-ロクヨン-前編/後編」(2016年)、「友罪」(2017年)など骨太な人間ドラマを描くことに定評のある瀬々敬久さんですが、杉咲さんのそういった心情を理解して演出されていた感じなのでしょうか?
どうなのでしょうか(笑)。ただ、後から聞いた話では、ある取材で「どうやって演出をされていたのでしょうか?」という質問に対し、瀬々さんは「祈るしかないんだ」と答えられたそうです。
実際、現場では具体的な言葉で演出をされる方ではなく、漠然とした単語を20回ぐらい投げ掛けられる感じで、「おっしゃっている意味は分かるけど、どうすればいいんだろう」という感じでした。でも、その言葉を聞いて、それは瀬々監督の映画に対する真摯な向き合い方であり、完成した映画を見て、瀬々さんに頑張って付いていってよかったなと思いました。
映画「楽園」
10月18日(金)公開
配給:KADOKAWA
原作/吉田修一
監督/瀬々敬久
出演:綾野剛 / 杉咲花
村上虹郎 片岡礼子 黒沢あすか 石橋静河 根岸季衣 柄本明
佐藤浩市