尾野さんがいてくれたおかげで、現場にいいバランスの空気が流れていた
――「この世界の片隅に」(2018年、TBS系)以来、二度目の共演となる尾野真千子さんや共演者の方とはいかがでしたか?
特にこの作品でいうとほとんど尾野さんとの絡みがメーンで、あとはずっと独房っていう感じだったので(笑)。
尾野さんとの接見室での二人芝居は、ずっと緊張感が張り詰めているシチュエーションだったので、すごく刺激的でした。尾野さんは、本当にすてきな女優さんで尊敬もしているので、そんな方と濃密で濃厚な接見室のシーンを演じられて光栄でしたね。
でも尾野さんは、あんなに重たいシーンを演じていても、カメラが回らないところではすごく男っぽく、明るく話してくれるんです。なので、本番の時に流れる緊張とカットが掛かった時の緩和っていう空気感が、いいバランスで現場に流れていましたね。
それは、尾野さんがいてくれたおかげです。僕だけだったらそんなふうにならなかったと思います(笑)。
――現場でとても熱量を感じたとおっしゃっていた落合正幸監督からは、何か演技などでアドバイスはありましたか?
「微笑み」に対してのアドバイスは、細かくいただきました。やはり、この作品は「微笑み」がキーになるので、タイミングだったり、「もう少し微笑んで」や「不気味な感じを出して」などアドバイスをいただきましたね。
――そんな、さまざまな「微笑み」に対して、松坂さんが演じられる中でこだわっていたことはありますか?
そこまで大きく変えないということですかね。同じ微笑みでも、シチュエーションが違うことで好印象にも不気味にも見えることを感じてほしいですね。
笑顔って、基本的には楽しい時や、自分の好きなもの、すてきなものを見た時に思わず出てくるものだと思います。でも、人によっては人が不幸に落ちているのを見たときに出る「微笑み」というのもあると思うんです。
自分は、笑顔は良い状態の時に出るものだろうと思いますけど、人によってはそうではない時の笑いもあるわけで、仁藤の殺害動機の解釈と同じように、笑顔も決めつけてはいけないなと思いましたね。
改めて、この作品を通して物の線引きみたいなものってあるようでないなって感じました。