――クセモノ刑事の儀藤はしゃべり方も独特ですが、役作りで意識した点は?
実は特に意識していませんでした。出来上がった作品を家で見ていた時に、家族から「これ、どうやって練習したの?」って言われるぐらい、息継ぎをするポイントだったり、抑揚のつけ方だったりが独特なキャラクターなんですが、自分の中では何もしていない感覚です。
――セリフの言い回しも自然とあの形に?
そうですね。何も考えていませんでした。
――儀藤は、これまでの田中さんのイメージとは180度違うキャラクターに思えます。実際に演じてみていかがでしたか?
新鮮だなとは思いました。でも、やっぱりどこまでいっても僕なんだなと。良くも悪くもキャラクターが立ち過ぎていないというか、僕がやるとフィクションになりきらないところがあるんです。これは自分の武器だと捉えていますが、どう演じても「こういう人、本当にいるかもしれないよね」という感じになる。ここまで強烈なキャラクターを演じてもそうなるのかって。
そう考えると、もっと思い切っていろいろなことができたんじゃないかなという思いがあります。機会があったら、もう一度儀藤を演じてみたいです。
――堤監督の作品に出演するのは、2007年に公開された映画「包帯クラブ」以来、実に14年ぶり。前回は、堤さんからの“ムチャぶり”がすごかったという話を聞きましたが、今回の現場では?
これは僕に対してではありませんでしたが、ある人がセリフを言う時に手を動かすような演出をされていて。それをやることによって、きっと何か違うんだろうなと思いながら見ていたことはありました。
儀藤に関しては「ここで帽子をギュッって押さえてみようか」とか、たまに演出を足されることがあって、それに素直に付いていきました。監督から言われたことを取り入れたことによって派生する感情や動きは僕らの好きにさせてくれるので。演じる上での取っ掛かりとして、監督のムチャぶりに乗っかっていた感じです。
――堤監督の演出に乗る面白さがあるんですね?
監督からリクエストされた動きをすることで、何かヒントをもらって答えを出す作業があったような気がします。ただ、僕はすごく意地悪なことを考えたことがあって。誰かが監督に「何で、そんな動きをするんですか?」って聞かないかなって思ったりしてました(笑)。すごく我の強い俳優さんだったら、そういうことを言ってもおかしくないですから。
でも、監督と僕らの間には信頼関係があって、お互いに信じているからこそ成立するやり方。堤さんの演出には、俳優にとりあえずやってみようかなって思わせる何かがあるのかもしれません。
――だからこそ“ムチャぶり”にも対応できる、と?
若い頃と違って、ムチャぶりに対して「どうしよう…」と戸惑うことはなくて。その動きをさせるのであれば、こう動いてもいいよねとか、自然の流れで生まれる何かを自分なりに作れるし、気持ち良く乗れることもできる。そういう意味では、すごく楽しかったですね。
――そんな中、儀藤は長ゼリフが多かったですね?
ただただ暗記するだけ。1文字ずつセリフを覚えていきました。
――覚えるコツは?
ないです。ひたすら黙読するだけ。もう、苦行ですよ(笑)。
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