2020/11/09 22:00 配信
芸人、絵本作家ほか、ジャンルの垣根を飛び越えて活躍する西野亮廣。2016年に発表し50万部を超えるベストセラーとなっている絵本『えんとつ町のプペル』だが、実は映画化を前提として設計された一大プロジェクトだった。構想から約8年、今年12月の映画公開を目前に、制作の舞台裏と作品に込めた“想い”を語りつくします。第12回目は、映画制作が加速する2020年に全世界を襲ったコロナ禍で、西野は何を思い、そして決断したのか。心の内の葛藤と、こんな時代だからこそ、新たに胸に刻んだ想いを明かします。
2020年2月。連日、各局の情報番組が大きなクルーズ船を延々と映していました。横浜港に入港したクルーズ船の乗客に新型コロナウイルスの陽性反応が確認された為、乗客2666人、乗員1045人全員の下船が認められなかったのです。この瞬間、全ての日本人が、海の向こうの問題と見積もっていた新型コロナウイルスを自分事として捉えました。
テレビに映るクルーズの姿に、僕は何故か、2011年9月11日のワールドトレードセンタービルの映像を重ねて観ていました。世界がマズイ方向に進む臭いを嗅ぎ取っていたのかもしれません。
クルーズ船の船内では集団感染が起こり、日を追うごとに数十人単位で感染者が増えていきます。そんな中、日本政府は、ウイルス検査で感染が確認されず、症状が出ていない乗客の下船を許可。SNSのタイムラインは「大丈夫なのか?」という声で埋まり、コロナの被害者が、野に放たれたゾンビのように扱われます。テレビは、「検査数」や「実効再生産数」は報じない。毎日毎日、とり憑かれたように「感染者数」と「累計感染者数」だけをひたすら唱え続け、国民の不安を積み重ねていきます。
まもなく、薬局からトイレットペーパーが消え、マスクをめぐって暴行事件が起き、全国各地でコロナ患者の魔女狩りが始まりました。コロナにかかってしまった有名人が謝罪を繰り返し、それが皮肉にもコロナ差別を加速させます。たった数週間で、世界は黒い煙で覆われてしまいました。
あの日。混乱していく世間を眺めながら、たくさんのことを考えました。僕が運営しているオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』には、約7万人のメンバーが在籍していて、その中には、実店舗を経営しているメンバーもたくさんいます。移動・外出が制限されたコロナ禍においての、実店舗経営者の苦しみは想像に難くありません。
エンターテイメントを提供する僕の仕事は、お客さんの安心・安全の上に成り立っているので、何よりも、お客さんの「衣食住」と「職」の確保が先決です。すぐに会社のスタッフと会議を重ね、サロンメンバーの現状を吸い上げて、このあと起こりうる天災などのリスクをリストアップし、対応にあたりました。経営難に陥ったお店のフォローにあたり、仕事を失ったサロンメンバーの雇用を探し、コロナによって公共の救済システムが回っていない熊本の水害の復興に奔走する日々。
本当なら、映画製作のことで埋まるはずのLINEのタイムラインには、たくさんの友人、スタッフ、先輩後輩からのSOSで埋まります。「クラウドファンディングに挑戦してみようと思うんだけど、どうやったらいいかな?」「オンラインサロンを始めてみようと思うのですが、アドバイスいただけますか?」。こんな連絡が、毎日、何十件も届きます。
正直に言います。当時、「クラウドファンディングの説明にしたって、オンラインサロンの説明にしたって、もう何年も何年も前から、僕は繰り返ししていたじゃないか。それを、あなた方はずっと否定していたじゃないか」という気持ちはありました。ただ、今更そんな言葉を口にしたところで、何かが前に進むわけでもありません。誰かが助かるわけでもありません。行政は機能していませんし、メディアは不安を煽るばかりで、問題を解決するつもりはなさそう。
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