――今回の選挙に影響を与えた事柄は何だとお考えですか?
日本では深く理解し難い話の一つが「Black Lives Matter」。黒人の男性が警官に暴力を振るわれて亡くなった事件をきっかけに、「黒人の命は大事だ」と、暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える「Black Lives Matter」という運動が全米で広がりました。大坂なおみさんが一生懸命に訴えたけどなかなか実感してもらえないところはありますよね。黒人票はバイデンが圧勝です。8:2とという調査もある。この動きが大きな影響を与えたと思います。
取材中、若い人の意識が日本と全く違うという印象も受けました。「ジェネレーションZ」という言い方もありますが、18~29歳の若い人の投票率が今回選挙では高かった。前回よりも8ポイントぐらい上がり、53%の投票率。若年層の投票率が50%を超えるのは米大統領選挙でもあまりなくて、1980年以来、3回目です。今回は画期的に増えました。彼らは積極的に選挙運動やデモ、集会に参加しています。
バイデンが勝利宣言をした後、ホワイトハウス前に居ましたが、若い人たちの熱気はすごかったですよ。歌ったり、ダンスしたり、ラップでまくしたてたり。トランプを批判する言葉も言いたい放題でしたが、そのパワーに驚かされました。
「アメリカの若者のパワーってこんなにすごいんだ」と、一緒に行った僕よりずっと若いディレクター、カメラマンも感動していました。こういう力で政治や世の中の仕組みが変わるのだと思います。
以前の人種差別反対を訴えた公民権運動は黒人が中心だったけれど、今引っ張っているのは、若い白人たちで、男性よりも女性の方が多い。その人たちの価値観はたいへん新しくて、LGBTとか、性的マイノリティー、人種差別、気候変動といった問題にとても敏感です。経済格差の問題もどんどん口に出していく。
今後、ジェネレーションZと、ミレニアル世代がアメリカ社会の中核を占めていきます。有権者の17%がジェネレーションZで、多様性の価値観を共有しているこの人たちがアメリカを変えていくのでしょう。
考えてみたらジェネレーションZが多感な頃、大統領はオバマだった。国のトップがオバマだったわけですよ。あの8年間は大きい。オバマ夫人や、オバマファミリーの姿を目にして、普通に受け入れていたのに、トランプの時代は白人至上主義。やっぱり変に思いますよね。
人種問題は他人事じゃなくて、日本のヘイトクライムと似ています。アメリカだけの話じゃない。僕らが現地に行く理由は、日本と比べて考えるきっかけやヒントになることがそこにあるからです。
日本もこれから変化していく。人口が減って、エッセンシャルワーカーとか、コンビニもレストランの店員さんも外国人、それはもう普通のことだし、アジアをはじめ外国からやって来た人たちも一生懸命働いている。それを受け入れないなんてことはあり得ないわけで、「俺たちの仕事を奪っているから出ていけ」なんて言いませんよね。それが最もアメリカから学べることではないでしょうか。
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