――脚本を読んで、作品の世界観についてどんな印象を抱きましたか?
佐藤浩市:僕は先に原作を読んでいたんですが、脚本を読んで思ったのは、世界観は原作と一緒かもしれないけど、“スタイリング”を少し変えたなと。非常に映像的になったなという印象でした。特に僕が演じる役は人物設定がだいぶ違うので、原作と脚本を一緒に考えることができないんですよ。だから、映像の中のキャラクターとして演じることに徹しようと思いました。
石田ゆり子:私も原作は読んでいましたけど、脚本を読んで改めて、すごい物語だなと思いました。私がこれまで参加したことがないようなタイプの作品で、「この物語をどうやって映像化するんだろう?」というのが、まず最初の印象だったんですけれど、波多野(貴文)監督の作品は初めてですし、(佐藤)浩市さんや西島(秀俊)さんが出演されると知って、私もぜひ挑戦してみたいなと思いました。
西島秀俊:僕は、波多野監督とは「オズランド 笑顔の魔法おしえます。」(2018年)という映画でご一緒しているんですが、波多野監督はどちらかというと、アクションやサスペンスを数多く手掛けていらっしゃる方。ですから今回、脚本を読んだときから、波多野監督の真骨頂と言ってもいい作品になるはずだと確信できたので、うれしかったですね。ぜひ現場を体験したいなと。
――それぞれ、演じる上で心掛けた点は?
佐藤:この作品は、感情的な部分を丁寧に描くことで成立する映画ではないんですよね。時差なく物語が進行して、非常に短いスパンの中でそれを追っていく、スピード感のあるエンターテインメント。もちろん、それぞれの人物に背景はあるんだけれども、それをお客さんに克明に見せるということはしていない。だから自分も、できるだけウェットな芝居はしたくないなと。僕が演じた朝比奈と、朝比奈と関係を持つ人物たちとの関係性も、ウェットな雰囲気に流されないようにしたかった。たぶん、それは波多野監督も同じ考えだったんじゃないかなと思っています。
――確かに朝比奈は、一切感情が揺れていない人物のように見えました。
佐藤:電話でのさりげない会話だったり、言葉のキャッチボールも変に重くウェットにしたくないという思いがありました。その上で、それが見ている人にどう伝わるのか。その裏にある思いというものを感じてもらえるかどうかが、われわれ演者の勝負なんですけどね。
――一方、石田さんは、買い物の途中で事件に巻き込まれる主婦のアイコを演じられています。
石田:アイコを演じるにあたっては、表に出せる部分と出せない部分があって、お芝居をする上で計算みたいなものが必要でした。今回の作品は、実はどのキャラクターも割と一人でいるシーンが多くて、そんなに多くの人と交わることがないんですけど、アイコは特に、表に出せずに抱えているものがすごく大きかったし、それをちらっと匂わせるということも、とても難しくて…。私としては、監督が「OK!」と言ったらそれでいいんだって、信じるしかなかったんです。深く考えすぎて、逆に自己満足になってしまうのもよくないなと思ったりして。だから、出来上がったものを見終わったときに初めて「あ、こういうことだったんだ」って、この作品のことをちゃんと理解できたような気がしました。
――西島さんが演じる刑事の世田もまた、過去や私生活などの背景はあまり描かれていませんよね。
西島:準備稿の段階では、世田の過去を描いたシーンもありました。でも、決定稿でそのあたりはそぎ落とされていて。ただ僕自身は、いつも準備稿から役を自分の中に入れるようにしているので、今回も、世田の過去のシーンを撮り終わったつもりになって演じてみよう、と。
ひとつ確かなのは、これは監督もおっしゃっていたんですけど、世田は最初から犯人の深刻な思いを感じ取っていて、みんなが油断しているときも、世田だけはしっかりと事件の本質を理解して捜査に臨んでいる、ということですね。
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