森山未來×武正晴監督対談「勝ち負けではない、その先に何かある映画だと思う」<Interview>

2020/11/30 07:00 配信

映画 インタビュー

映画「アンダードッグ」で主演を務める森山未來(左)と監督・武正晴(右)にインタビューを行ったヘアメーク:須賀元子/スタイリング : 杉山まゆみ

森山「このくすぶりを観客の皆さんはどこまで我慢してくれるんだろう?って」


――出来上がったものを見た感想は?

森山:監督が仰ったようにボクサーの日常ではありますけど、ボクサーの日常と言うにはあまりにも暗澹(あんたん)たる生活というか(笑)。ボクシングもやり切れてないような生活ですからね。これが例えば、勝地の演じる宮木とか、匠海くん演じる龍太とかだと、人生の機微が見やすいんですが。

主人公ではありますけど、末永晃という人物のトーンっていうか、ちっちゃく頑張ろうと思ったり、ちっちゃく落ち込んだり、その感情の機微はできるだけ表に出さず、ボクシングで感情をなんとか発しようと思うけど、そこはたたき潰されて(笑)。
このくすぶりを観客の皆さんはどこまで我慢してくれるんだろう?っていうのは、最初見た時、素直に思いました(笑)。主人公の目線で見るわけですから、我慢を強いるものだなぁって。

武監督:女性に受けがいいのはどういう理由なのかな?

森山:“後半になってくると晃が愛おしく見えてくる”って言われましたよ。

武監督:母性本能をくすぐるのかな?

森山:そっちですよね。ヒモ的な(笑)。

武監督:あまりにもダメダメなので、そんなところが(笑)。

森山:いたたまれない感じがします。

武監督:映画を見てもらえれば分かるんですけど、晃の親父もダメなんです。

森山:ハハハハ。

武監督:親父は奥さんが亡くなって、ちょっと嫌になっちゃったんでしょうね。

森山:アキラめ(笑)。

武監督:そうそう、もう一人のアキラ(末永晃の父親・作郎役の柄本明)。

――男性目線と女性目線と違う印象があるかもしれない作品ですね。

森山:そうですね。晃は落ちぶれてしまって、そこから少しずつ少しずつさらに落ちぶれていくんですけど、「なんで落ちぶれてしまったのか」ということに関しては晃自体にはそんなに非があるわけではないんです。本人が何かやってしまって谷底に突き落とされたとか、分かりやすい原因があったわけではなく、何かちっちゃなチョイスを間違えたとか、ボクシングに勝てないとか、「えぇ〜…」って感じで落ちていくので、見ていてツラかったです(笑)。

武監督:「こいつ、まだまだ何か出すつもりだ」って、本性を出すところがあるんですけど、全部は出してないんです。ちょっと見せてる感じなので、晃をのぞき見してる感覚。

森山:渋い(笑)。

武監督:晃がのぞきをしているのを防犯カメラでバレてたのが分かるシーンがあって、本人は「そんなわけないだろ!!」ってうろたえるんですが、われわれも防犯カメラを通して、晃が時々ちょっと変なことをするのを見ている。それが映画なんですね。

なので、見てる側は「早くボクシングをやらせないと何するか分からないぞ!」って気持ちになるんです。それを言ったら、われわれの世界と一緒なんです。映画を作ってるとか、俳優をやってるとか。

森山:うん。それをやってなかったらただの社会不適合者ですから。

武監督:だから晃に気持ちが乗ったり、アンダードッグの話は意外と俳優の話だったり、映画の話だったり。

森山:リングの上というか、ステージ上でしか自分の存在意義を示せない、確認できない。

武監督:家にいる時は何をしてるか分からない。謎めいてるでしょう。

森山:それはあるかもしれないですね。

――最後に、あらためてこの作品の見どころと読者へのメッセージをお願いします。

森山:ボクシング映画で、ボクシングという題材を使ってはいるけれど、人っていうのが「もうええ加減、向き合わなあかん」っていうタイミングとか、どうやっても立ち上がれない困難なタイミングっていうのは必ずあると思うんです。

そこを見つけることも、見つけたきっかけをつかむことも容易なことではないけれども、それを“つかまなきゃ”って思わせる、そういう背中を押す映画になってると思います。勝った、負けたっていう明確な映画ではないけれど、勝ち負けではない、その先に何かある映画だと思うので触れてもらいたいなと思います。

武監督:俳優たちの全身全霊をどうか劇場で浴びて頂けたらと。僕はこの映画に力をもらえました。どうか皆さまにも届けば幸せです。よろしくお願いいたします。


◆取材・文・撮影=田中隆信