――では、井筒監督から掛けられた印象的な言葉はありますか?
井筒さんから言ってもらったことはいっぱいありますけど、何でしょうね…。私だけに言ってるわけではなかったのですが、「自然に演じてるだけで、それをカメラで捉えてもらって、それが伝わるようなものになると思うな」みたいなことですね。
自然に演じる中でも、“どこからカメラが撮っていて、どのタイミングで、どの瞬間の顔が必要なのか”をち密に計算しないと流れてしまうので。キャストも多かったので、それをよくおっしゃっていました。
「今こう撮ってるやろ!? だからこうやねん! 分かるか?」って。演技がわざとらしくなっちゃダメなんですけど、その中でちゃんと撮られている、撮ってもらっているっていう意識は、すごく厳しく指導していただいたイメージです。私も何回か「ゆり菜分かってんな? 今どこから撮ってる?」みたいな確認などはテスト前にありました。
リアリティーのある映画を撮るときに、自然にしているものをカメラマンさんたちが捉えるっていうスタンスの現場もあって、私も経験してきましたし、それにはそれの良さがあるんですけど、でも井筒さんの作品の力強さっていうのは、そうやってちゃんとち密に計算されているところにあって、役者もそこに持っていく努力をしているんだっていうのは、すごく勉強になりましたね。
――松本さんとの夫婦役はいかがでしたか?
MATSUさんは…優しい。カッコいいし、すごい大きな舞台にも立たれているし、いろんなことを昔からやられている方なんですけど、どこかに脆さがある雰囲気が正治っぽいなと思いましたね。失うものを知っている男っていうか、それを知っていないと強くはなれないと思うので、そういった人間臭さみたいなのが顔に出てくるのをすごく感じましたね。
――組の人たちが正治に生まれた子供を見せるシーンがある一方、正治と佳奈は子供を持ちませんでした。それには何か理由があったのでしょうか。
組員たちがわが子のようだから、ですかね。組員たちっていうのは、本当に私の中でかなり重要なポイントで。佳奈は正治を好きになって、組員の人たちと出会って、責任も負うようになっていくんですけど、そこから逃げない理由の大きな要因として家族、わが子のような組員の存在がかなり大きな要素としてありますね。
――この映画から、柳さんはどんなことを観客の方々に受け取ってほしいと思いますか?
井筒さんって本当にはぐれ者を描くのが上手というか、あまりうまく社会になじめていなかったり、疎外されてしまうような職業だったり、そういう方たちを描くのに愛がある人だと思っていて。この作品はまさにそうで、「無頼」っていうタイトルの通り、出てくる人たちは誰にも頼ることもできず、毎日が戦い。
でも、その人たちにはそこで生きる意味があるというか、そこでしか生きられないという意味もあるし、そうなったのは社会の問題でもあって、それを社会が疎外するのも一つの見方としては問題があったりする。生きていく中での正解はないし、何が悪い、何が良いっていうのは、提示できないと私は思っています。
でも、こうやって生きた人たちを疎外することはしなくていいんじゃないかなって思える、一つのエンターテインメントとしてこの世界を知って、こうやって生きていく中に希望や人生の意味みたいなものを観ている人が何となく自分と照らし合わせて考えてくれたりしたら、とても面白く観てもらえるんじゃないかなって思います。
――ありがとうございます。では最後に後回しにしたハプニングトークを…(笑)。
ですよね!(笑) ハプニングというか覚えている出来事なんですけど、服役中の正治に佳奈が面会に行って、ある報告を聞いて初めて正治が泣くっていうシーンで、佳奈は泣いているのを見ているだけの台本だったんですけど、テストで私が泣いてしまって。それを見て井筒さんが泣くのを生かしでいこうってなったんですよ。
でも、泣き方を「こっちから撮ってるから、こっちから涙を流してほしい」とか、「このセリフのここで流して」とかずっと言われて。そこで泣いても、涙が出る目の順番が違ったとか、涙のコントロールをすごく言われて。私もできたらよかったんですけど、できないから「何で私泣かなきゃいけないの!?」みたいに思えてきて。自分が泣いたくせに(笑)。
それで本番のカットが掛かった瞬間に、ちょっと涙目になりながら井筒さんのブースのところに行って、少し怒った顔をして「お疲れさまでした!」って言ったら、「全部良かったよ! 全部キープしてるから」みたいな感じでご機嫌を取られまして、後で「すごい気ぃ強い女やわ~」って井筒さんから言われるっていう(笑)。
結構みんな井筒さんにはボロカスに言われたりして、特に男性陣はピシッ!って感じだったんですよ。でも、私は懐いていくしかないなと思って結構懐いたので、何か言われたときも「分かりました!」じゃなくて「OK!」って返事をしたり(笑)、受け入れてもらえてよかったです。そんなエピソードでした(笑)。
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