――10年にわたる記録という番組ですが、まず、りんくん、清さん一家を取材することになったきっかけから教えてください。
番組の中で、りんくんの祖母の文子さんが、りんくんのために絵本を作ったお話が出てきますが、実はあれは2冊目の絵本なんですね。
文子さんは10年前に1冊目の絵本を作っていまして、その時にSBSテレビの方に、「絵本を作ったので、番組で取り上げてくれないでしょうか」という申し出をいただいたんです。その際、夕方番組の10分ほどのコーナーで取り上げさせてもらったのがきっかけです。
当時、私はコーナーの編集を担当していたのですが、お孫さんのことを描き、色素性乾皮症の現状を知ってほしいという思いから作られたその絵本を読み、なんてすてきな本なんだと思いました。私は色素性乾皮症のことを知らなかったので、まずお話を聞かせていただこうと連絡を取らせていただきました。
そこからすぐに「長く取材を」となったわけではなく、お電話したり、時間を見つけてお話を聞かせてもらいに行ったり、一緒に遊んだり、家庭でイベントがあるときにお邪魔させてもらったり、そうした形でお付き合いを続けました。
色素性乾皮症は、30歳ぐらいまでしか生きられないと言われています。そんな過酷な状況がある中で、清さん一家はとても明るくて、あっけらかんとしているようにさえ見えました。かかわりを重ねていくうちに、家族のパワーの源はどこから来るのか、そこに関心を抱くようになり、取材のお願いをしました。
難病を抱えていて、太陽の光に当たることができない、若くして生涯を閉じてしまうということを聞くと、「それはたいへん」「かわいそう」という目で見てしまいますよね。私も同じでした。
そんな気持ちで取材をしようとしていたのですが、ある時、りんくんのお母さんの京子さんから、「あれがりんくんだから、このままでいいんだ」というお話を聞きました。
それまでの自分は、ご家族から苦労の言葉を引き出そうとしていたと思います。でも、そうじゃない、20年、30年をどう充実させるか、幸せに暮らしていくかということを考えている家族なんだということに思い至りました。
家族の皆さんはどのようにそうした考えに至ったのか、その思いは10年15年先にはどうなっていくのかということを知りたい、そこから家族の在り方が見えてくるのではないかとも思い、長いお付き合いをさせていただいてます。多少はウザがられることもあるとは思いますが(笑)。
――今回、民教協スペシャルの企画として応募された理由をお聞かせください。
色素性乾皮症の患者さんは全国、世界中にいます。清さん一家や色素性乾皮症の取材を通して感じたのは、患者やそのご家族が、偏見、差別まではいかなくても、好奇の目で見られるということです。
ご家族の思いは、まず病気のことをみんなに知ってもらいたい、その一点です。病気のことを知ってもらえれば、患者への見方、気持ちは変わるんじゃないかと思っています。ですから、日本全国の方に知ってもらいたいと考えたことが理由の一つです。
それから、新型コロナの流行で人々の行動が制限されるようになり、生活スタイルが変化しました。家族で過ごす時間が増えた人、一方で家族と会えない人もいる中で、「家族の絆」への考え方も変化したのではないでしょうか。そんな中で、たくましく生きている家族がいることを今この時期に届けたいと思ったことも理由です。
――静岡(SBSテレビ)では、りんくん一家のことを何度か放送しているのでしょうか?
SBSの夕方の情報番組では、継続取材しているものを定期的に「りんくんの近況」という形で放送しています。また、7年前に1時間のドキュメンタリーとして放送しました。今回の番組は、そこに新たに取材した内容を追加したものになります。
――それらの番組をご覧になったご家族の感想、反応はいかがでしたか?
番組で取り上げる上では、死というテーマを避けられません。りんくんが長く生きられないことにも触れます。頑張っている家族に現実を突きつけることにならないかと、心配しましたが、ご家族から批判的な反応はありませんでした。
7年前は、りんくんが中学2年生のときでしたが、放送後お母さんから「りんくんが一気に有名人になりました(笑)」というメールをいただきました。番組を好意的に受け止めてくださったと感じました。
きっとご家族は、その時に至るまでに、現実としっかり向き合い、受け止めてきたのだと思います。
色素性乾皮症の患者さんの家族の会が存在します。全国から定期的に集まり、専門のお医者さんも来て、情報を共有する交流会が行われています。そこでは和気あいあいと、家族が亡くなった方も参加して、自分の体験したことを話されます。何歳になったらこうなる、という実体験を聞くうちに、年少の患者がいる家族に覚悟が備わっていくのかもしれません。
清さん一家は、そういう病気なんだ、それがりんくんなんだということを理解して前へ進んでいる。死のことも含めて皆さんに知ってもらいたい、そういう思いがあると思います。
――「おひさま家族」というタイトルへの思いを聞かせてください。
おばあちゃんの文子さんは、「この子は太陽を憎まなければいけないのに、太陽に『バイバイ』って笑顔であいさつするんだよ。なんでかなあと思うよ」というようなことをおっしゃっていました。
太陽=おひさまが出ていれば何かを被るとか、日焼けを防止するクリームを塗るとか、りんくんや家族にとっては煩わしい存在なのかもしれません。
でも、取材をしていて感じたのは、一家はりんくんを中心に生活が成り立っているということです。りんくんが笑えばみんなが笑うし、りんくんが泣いたら、どうしたの?と気にかける。とにかくりんくんが一家の中心になっています。そして、その様子がとってもあたたかいんです。
そんな印象から、りんくんはまさに「太陽=おひさま」なんだなと感じ、このタイトルを付けました。
――ナレーション担当は、リリー・フランキーさん。起用の理由やリリーさんの言葉を教えてください。
番組では、極力派手なテロップや仰々しいBGMを排除して、家族の声を届けたいと考えました。そんな作品になじむトーンのナレーションをと考え、リリーさんにお願いしました。リリーさんの落ち着いた声こそが、家族の声や表情を最も伝えられると思います。
収録は年明けに行いまして、リリーさんからは「いい仕事始めになりました。時間を大切に生きていかなければいけないということを感じました」という言葉をいただきました。
――最後に、この記事を読まれる方へのメッセージをお願いします。。
家族が疎遠になってしまったり、一人で問題を抱えなければならなかったり、たいへん生きづらい世の中になったと思います。そんな中で、番組をご覧いただいて、誰にも生まれてきた意味があるということを感じ取ってもらえればうれしいです。また、こういう時期だからこそ、家族の絆を感じてもらえる作品なのではないかと思っております。
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