林原めぐみ、アニメキャラと歩んだ人生から“今を生き抜く力”を伝える「時間の無駄と思う中にいい事や発見がある」

2021/02/20 10:00 配信

アニメ

声優・林原めぐみが著書「林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力」について語った

‘86年にテレビアニメ「めぞん一刻」で声優デビューして以降、「新世紀エヴァンゲリオン」の綾波レイ、「名探偵コナン」の灰原哀など、多くのアニメ作品でキャラクターの声を担当してきた声優・林原めぐみ。そんな彼女は、それぞれのキャラクターとどう向き合ってきたのか、そしてどんな思いを受け取ってきたのか。これまでの経験から、読んだ人が今を生きていく上でのヒントになるようなメッセージを綴った著書「林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力」が2月20日(土)に発売される。高橋留美子、高田裕三、貞本義行、青山剛昌、尾田栄一郎、藤田和日郎など、20名の漫画家やアニメクリエイターからの特別寄稿も掲載された豪華な1冊。今回のインタビューでは、同著を書こうと思ったきっかけから、本書に込めた思いなどを語ってもらった。

――豪華な内容の本になりましたが、どのようなきっかけで執筆が始まったんですか?

まずは、たくさんのキャラクターに関わってきたおかげで、私自身の思考が随分と変化して、そのことが私の人生そのものに大きくプラスに影響してくれたことを日々痛感していて、その思考を少しかみ砕いて、みなさんの生きる上で何か少しでも役立ったらいいな…という思いが強まっていたんです。さらには、今、NetflixやAmazon prime videoなどで昔のアニメが“購入”という形でなくても、会費を払えば見られる“サブスクリプションサービス”で見られる時代に突入していて、「昔の作品が呼び起こされてきているな」って感じたこともひとつあります。20〜30年前は「アニメが好き」って堂々と言えない時代がありました。例えば、何か事件が起こると「アニメファンだ」と取り沙汰されたりして、好きを好きと言えない時代があったことを踏まえ、時代がガラリと変わろうとしている今、「こういう時代があった」ということを残しておくことも必要なのかなって。

――今はアニメをどの年齢層の人も見ていますし、「アニメが好き」ということに対する世の中の反応も以前とは違ってきていますね。

そうなんです。見る側だけじゃなく、声優の演じ方やあり方、世の中のポジショニングもずいぶん変わってきていて、多岐にわたる才能を持った方はいろんな形で羽ばたいていって、それがいい結果を生むこともあれば、消費という切ない結果を生むことも。そんな中で、“声を作る”のではなく、“キャラクターと共に生きる”という職人っぽいというか、かつての物づくりの無骨さみたいなものがあった時代をひとつ記録しておきたいという気持ちもありました。たくさんのキャラクターを演じてきましたけど、「私はこんなにたくさん演じましたよ!」ではなく、“演じること=共に生きること”なんですけど、共に生きたからこそ、実際に生きていく上のヒントをたくさんもらえたんだと思うんです。

――その時代時代の現場を経験している林原さんだからこそ残せる記録があると思います。

はい。アニメの作り方もよりデジタルになっていくことで、昔は「せーの!」って全員揃って録っていたものが、揃わなくても録れるようになりました。「せーの!」じゃなきゃいけないわけじゃないし、必ずしもデジタルが悪いとは思っていませんが、かけ合いのアドリブとか、「せーの!」じゃないと生み出せないものもあったなぁって。それはクラシックのオーケストラもそうなんですよね。オーケストラ全員で録れるスタジオそのものが少なくなっているということもありますけど、効率の良さを重視するとヴァイオリンはヴァイオリン、チェロはチェロで録るという方がスムーズにいくわけです。これは有名な話ですけど、ヴァイオリンの空洞はチェロの音に共鳴するようになっていたり、ハープの音階はちゃんとピアノの鍵盤と響き合うようになっていたり、そういうのが全て計算し尽くされて成立するのがオーケストラだと言われています。

合理性を重んじて、“共鳴”という部分がどんどん削られていく世の中にこれからもどんどんなっていくんだと思います。何もかもがデジタルになってしまう前に、たとえ焼石に水でも、その武骨さも少し伝えかかった。動画配信もそうですけど、今の世の中、本当に便利ですよね。生まれた時からGoogleとかネットで検索する環境にある若い子たちの中には、例えば神保町とかの古本屋に足を運ぶ価値が根本的に分からなかったり、時間の無駄だと思う子も多いと思うんですね。でも、時間の無駄と思う中にいいことがあったり、発見があったりするんです。もしかしたら一生行く機会がなかったかもしれない素敵な喫茶店を見つけたりすることも。私はたくさんのアニメのキャラクターを演じることで血肉になって、私の人生そのものが楽になっていったので、ただアニメを見るのも楽しいけど、さらに奥を知って、生きるヒントみたいなものを感じてもらえたらもっと楽しくなるのかなって。

――それがタイトルに繋がっているんですね。

そうです。受け身でもいいんですけど、その中で一個だけでも能動的な気持ちが出た時に、何か行き詰っていた気持ちが、ガラッと変わる瞬間がきっとあると思うんです。例えば、流し見をしていて「あ、自分と同じ気持ち」とか「自分がずっと抱えていたものと重なる」とか「何かシンクロする」とか、そう思った時、自分の人生にとって忘れられない作品になったり、先生になったり、友達になっていくんだろうなって。アニメはギャグから歴史物までジャンルが多岐にわたっているので、その中に自分と共鳴するものがないわけがないと思っています。だから、絵空事の顔をしているけど実は現実的にすごく色の濃いメッセージを投じていたりするんです。

「何もかもがデジタルになってしまう前に、たとえ焼石に水でも、その武骨さも少し伝えかかった」と話す林原

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