――この本の中では20代だけでなく、幼少期の頃のことも書かれていますが、過去を振り返る作業はどうでしたか?
これまでにも振り返ることは結構多かったんですよ。それは整理するという感じではなくて、「あの時、こんなことを思っていたなぁ」って、その時の経験を今に生かすというのが多かったので、振り返ること自体にそれほど新鮮さはありませんでした。でも、今回は「あの時のことが、その後のあれに結びついてたのか」とか気づいた部分が多かったですし、今に至るまでに取ってきた行動のひとつひとつがすごく大切な選択だったんだなって。
――「汚れた感情の向こう側」「絆の音色」「他者という名のフィルター」「未来をつくる輪廻」という4章で構成されていますが、最初からこのような構成にしようと?
いや、最初はどういう構成にするのかは全然考えてなかったです。最初の打ち合わせで「どういう本を作っていきます?」「この本を読んでくれた人が共感してくれて、『俺も頑張れるんや』『こんな私でも可能性があるんや』って思ってもらえる本にしたいです」っていうところから始まって、そこから具体的にどういうことを話していくのかを決めていきました。それで、“角刈りにされた事件”とかひとつひとつにタイトルみたいなものを付けて、それを一覧にして投げさせてもらって、「この話ならできますので、どういうふうにまとめるかは作っていく中で決めていきましょう」と提案したんです。
――「断髪式」に始まり、「暴力的な思春期」「BKW!!(番狂わせ)」など、それぞれの章の中のタイトルからも気になる内容が満載でした。THE ORAL CIGARETTESのファンだけじゃなく、いろんな人が共感できる部分が多いんじゃないかなって。
ありがとうございます(笑)。それもすごく意識したところです。「若者へ」というのがテーマのような気がしていて、僕もまだ悩んだり考えたりすることの方が多いんですけど、学生とか「これからの将来、どうしよう?」って考えてる、これからの日本を作っていく人たちに対して自分に何ができるのか?という思いもあって。なので「クソ野郎でもここまで這い上がれるぞ!」っていう(笑)、そういう感じで少しでもいいので勇気になればという気持ちがあります。
――コロナ禍で就活も思うように出来なくて将来に対して不安を持っている学生の方も多い時期だと思います。
そうなんですよね。不安な状況になると余計考えてしまうじゃないですか。不安を紛らわすために周りに合わせようとしたり、日本人のいいところでもあると思うんですけど、“右向け右”みたいな文化がありますよね。でもそれは自分個人のことを考えると心をすり減らす大きな要因になってるんやないんかなって。コロナ禍の今やからこそ、人の言葉を自分のために生かせると思っています。そういう部分でも、いいタイミングで出せたのかなって思います。内容もバンドマンというか、ボーカリストというのもあまり関係ない本になったんじゃないかなって思っています。一人の人間として「人生、こういう例もあるぜ!」って。「俺、別に特別な人間やないし、他の人らと変わらんで」って思うので、親近感を持ってもらえたりして、「読んだら元気になった」ってなってくれたらうれしいです。
――歌詞を書く時も身を削って書かれていると思いますが、今回も山中さん自身から吐き出された言葉で構成された本ということで分身みたいな感じなんですかね?
それはありますね。あと、スッキリした気持ちって言ったら変かもしれないんですけど、この人生の中でいろんなことがあって、それらの出来事一個一個を見つめ直してみたことで、若気の至りをうらやましく思いつつも(笑)、今だからできる新しい発想っていう強みもあるっていうのを改めて感じることができました。昔はとりあえず誰かに噛みついて、「俺らの方が強いから!」って虚勢を張っていたんですけど、それはその時にしか出来なかったかっこよさで、今は今で、いろんな経験をしてきたからこそ手に入れたものがあるなぁって。この本を書いたことによって30代の自分がより楽しみになりました。
――この本を書く前と書いた後で、そういう変化があったわけですね。
はい。この本を書き始めるぐらいまでは「うわぁ、もうすぐ30歳になってしまう。30から何したらええんやろ?」って思ってたんですけど、書いてる途中から「30からも意外と楽しそうかも」って思いましたし、腹のくくり方も変わってきたので本当に書いて良かったです。この本、40歳になった時に読み返してみたいですね(笑)。30代ってどんな感じなんですかね? 聞いてみても「一瞬でほぼ覚えてない」とか「恩返しの連続やったね」とか「男は30から。30代の方がモテるで!」とか、人によって違うんです。そういうのを聞くと「楽しそうやな」って。
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