尾上松也、“元エリートバンカー”役に「銀行と関わりのある作品に縁があるなと…(笑)」【Interview】

2021/03/11 08:00 配信

映画 インタビュー

尾上松也がインタビューに応じた撮影:ブルータス海田

――予想もつかない展開に引き込まれました。初主演映画ということで、まずその心境をお聞かせいただけますか。

出演のお話を頂いて、脚本の第一稿を拝見した時から、いい意味で「訳の分からなさ」を感じて、そこに強くひかれました。

――主人公・香芝誠というキャラクターについて教えてください。

香芝は、すごく偏った考え方の持ち主で、(左遷される前に)東京にいたころから他人との交流が苦手で、むしろ避けてきたような人間だと思うんです。実は僕自身も、あまり人付き合いが得意ではなくて、コミュニケーション能力もあまりない。ですので共感できるところもあり、僕自身は香芝のことをすごく人間的だなと感じました。

――香芝を演じるに当たって、特に心掛けたことは?

テンポ良く展開していく作品ですので、香芝の人間としての芯をしっかり表現しなければまとまらないと思いましたし、彼が成長した姿を見えるようにしたいと考えました。そうしなければ、ただ歌っているだけ、ラップしてるだけの主人公になってしまうので(笑)。ラップや歌を生かすも殺すも、人間としての香芝がそこにあるかどうかが関わってくることを忘れてはいけないという思いがありました。

それについては真壁幸紀監督ともすごく話し合いましたね。監督からはシーンごとにいろいろ要求もありましたけど、どちらかというと、足し算よりも引き算の方が多かったイメージです。僕がやり過ぎた時には抑えてくださるみたいな(笑)。特に歌のシーンとか、モノローグのシーン。僕は「やり過ぎるぐらいやってみる」のも一つの手だと思っているのですが、そこは監督も理解してくださって、率直に「ここまでは大丈夫」っていうことで、しっかりコントロールしてくれました。

――松也さんは、2020年に放送された大ヒットドラマ「半沢直樹」ではスーパーバンカーとタッグを組むIT社長に扮(ふん)していました。そして、この映画の香芝は元エリートバンカー。そこに因縁めいたものを、個人的には感じるのですが…。

実は、この映画の撮影中にはまだ、「半沢直樹」への出演のお話しはなかったんです。僕自身も本当に「くしくも」というか、単純に「銀行づいている」というか、銀行と関わりのある作品に特に縁があるなというふうに、最近になって感じているくらいなんですよ(笑)。

――香芝が、金魚すくいの店「紅燈屋」を営む吉乃(百田夏菜子)にどんどんひかれていくところも、物語のキーポイントになっていますね。

吉乃にひかれたのは、直感的というか、何か本能的なところで感じた部分があるんでしょうね。出会ってから内面を少しずつ知っていったわけではないので。あの町の人は香芝が東京で過ごしてきた人たちとは違っていて、こうしなきゃいけない、ああしなきゃいけないとか、見栄とかプライドに縛られていない。

自由に生き、何をして楽しむかを大切に生きている。その人たちに香芝がどんどん感化されていく。彼はプライドが高いから最初は皆に対して「なんだこいつら」って思っているわけじゃないですか。自分からは心を開かない。でも吉乃のことだけは最初に見た時から気に留めていた。

――でも、単なる一目ぼれではない。

あの中で一人、吉乃だけが何かに苦しんでいる感じ。香芝の抱いていたものとはまた違う息苦しさかもしれないけども、そこにシンパシーを感じたのではないかな。香芝は東京と違う環境を持つところに住むことによってだんだん人として変わっていって、成長できた。

だからこそ、東京に戻る前、最後に吉乃も何とかしてそれで救いたい、何かを変えてあげたいと違う環境に誘い出したのだと僕は感じています。