本作を視聴して、まず内包するテーマの幅広さに驚いた。
聡が性的マイノリティーを両親にカミングアウトし、続いて、環が兄たち同性カップルの代理母として妊娠したことを告白。事態を受け止めきれず戸惑いを隠せない両親の姿が描かれ、「同性愛者は子どもを望んじゃいけないの?」という重い問いが投げ掛けられる。
だがそれは、あくまで起承転結の“起”。その後も、環が職場で受ける何気ない性差別や、聡とパートナーが向き合うキャリアと育児の問題など、いくつものセンシティブな題材が顔をのぞかせる中でドラマは進んでいく。そして「この妊娠は、私の望みでもあるの」という環のつぶやきがあり、環と母親とのこじれた母娘関係が描かれていく。
にもかかわらず、一切混乱もしないし、テーマの重さに目を背けたくなるようなこともない。ただただ、環というキャラクターの感情の揺れが胸に迫ってくる。
それはなぜだろうかと考えてみた。一つ挙げられるのは、信念の感じられるストーリー構成だ。
一見難しいテーマを取り扱いながらも、ストーリーの軸はとてもシンプル。主人公・環が過去のトラウマに向き合い、自分の意思を持って成長していく、という一点に集約している。
今作は、若手脚本家の登竜門と言われる「ヤングシナリオ大賞」の2020年の大賞受賞作。1567作品から選ばれた力ある新人脚本家・的場友見氏のデビュー作を、これが監督デビュー作となるフジテレビ・清矢明子氏が演出している。
このフレッシュなコンビが、信念を持って環というキャラクターに寄り添っている。取り扱う題材を、必要以上に説明することなく“通過”する。現実がそうであるように…。だからこそ、見ている側もその視点に導かれ、環の物語をリアルに感じることができるのだ。
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