舞台「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」開幕、シリーズ初のフライング演出も

2021/04/16 20:27 配信

2.5次元

出演キャストが異能力者たちを好演


今作では、敦、鏡花、芥川が乖離した異能を通じてそれぞれの「壁」と対峙し、それを乗り越えるさまが描かれている。2017年の初演以来、エバーグリーンな輝きを放ち続ける中島敦役の鳥越。今回は敦の内面奥深くに芽生える苦悩に寄り添う姿を、見事に体現している。

その過程で、乖離した異能力“月下獣”に立ち向かい、自らの過去を受け入れていく敦。ラストに鳥越が見せる“生命の輝き”は、まさしく舞台ならではの熱量だといえる。

元ポートマフィアの暗殺者、泉鏡花役・桑江が小柄な体躯を生かしながら舞台を縦横無尽に駆ける様子は「文ステ」シリーズではおなじみ。霧の中、鏡花は“両親の仇”である異能“夜叉白雪”と相対する。「鏡花の両親と“夜叉白雪”の真相」に触れ、本当の意味で自らの異能を取り戻す鏡花。鏡花の深い内面を表出させる桑江の熱演は、「文ステ」の新たな魅力となった。

今作において、映画と大きく異なって描かれるのがポートマフィアの2人だ。橋本演じる芥川は、異能を失うという窮地にあっても、ブレることのない意志をもって任務にあたる。橋本の持つクールかつソリッドな魅力はこれまで同様、今作では、一層ストイックな芥川を好演している。

また、植田演じる中也との絡みでは、これまであまり出すことのなかった“後輩顔”もちらりと覗かせる。この点もファンがこれまで見たことのなかった“芥川像”となるのではなかろうか。

その中也は作中で八面六臂の大活躍を見せる。演じる植田の運動神経の高さはもちろん、特筆すべきは「文ステ」初となる「フライング演出」への挑戦だ。舞台表現が難しい「龍」との対決、異能力“汚濁”の発動を、プロジェクションマッピングとの合わせ技で見事に表現している。

劇中歌に合わせた一連のステージングは、原作を見たファンであれば、その再現度に感嘆するに違いない。あわせて今作では、原作にはなかったアクションシーンや、幹部然とした中也の一面が追加されている。アンサンブルとともに見せる大立ち回りにもぜひ注目いただきたい。

その中也の元・相棒、太宰を演じるのは「文ステ」初登場の田淵。陰謀が渦巻く“骸砦”では冷静さが際立つ役回りだが、今作最後に見せた人間味あふれる表情が筆舌しがたいほどすばらしかった。中也役・植田とも息の合ったコンビネーションを見せ、これまでのシリーズで積み上げられてきた太宰の魅力をそのままに、さらなる奥深さをキャラクターに与えている。今作ではフョードル役・岸本、澁澤役・村田との“超人同士のだまし合い”を見事に演じ切っている。

初登場はまだまだ続く。謎多き男、フョードル・D役に挑んだのは岸本勇太。フョードルは今作で超越的な策謀を企てる“魔人”。岸本が舞台に登場するたびにいてつくような緊張感が漂い、空気がぐっと引き締まる。初登場とは思えぬほど場を支配しており、悪賢いフョードルをすっかり自分のものにした岸本。また、クライマックスに向け盛り上がる中、アンサンブルと見せるダンスシーンにも注目だ。

そして圧倒的な存在感を示したのが、澁澤役の村田充だ。今作ではこの世の全てに退屈を覚え、異常なまでに命の輝きに執着し、歓喜する澁澤。その気味の悪さを表情や立ち姿で表現しながらも、刹那的な美しさや寂しさも同時に醸し出す。澁澤という得体のしれない人物を見事に怪演し、人目を奪った。

その澁澤と鳥越演じる敦のバトルは今作のクライマックス。澁澤の、まさしく“人間を超えた”超然たる振る舞いと、真っ向から対立する敦の「あがき、まよい、さけぶ」姿は、ぜひその目でご覧いただきたい。