山田裕貴、“芝居”に対する熱い思い「演じる役がちゃんとそこに生きているという意識を強く持つ」<Interview>

山田裕貴 撮影:永田正雄

――テストジャンパーを演じるための“特訓”は、かなり厳しかったとか?

あの長いスキーの板を足に着けてスタート台に行くまでが大変。そんなに簡単には歩けないです。でも、作品の中ではテストジャンパーとしてしっかりと存在していないといけない。どんなに芝居がうまくできても、スキーの選手に見えなかったらダメ。その部分はみんな気にしていたと思います。

だから、スキーの練習をしたというよりは、スキージャンプの選手に見えるようなしぐさや挙動を意識しながら芝居をすることが難しかったです。

――劇中では、実際にスタート台に立つシーンがありましたね?

めちゃくちゃ飛びたいと思いました。飛べたら気持ちがいいだろうなって。もちろん飛べるわけはないですけど(笑)。

でも、実際に少しだけ滑っています。20mぐらい進んだらアクションチームの方たちが後ろから引っ張ってくれるから安全なんですけど、それでも風を感じましたし、これからどんどんスピードが上がっていくんだろうなという感覚はありました。

――日本代表選手の枠から漏れ、テストジャンパーになった西方(田中)がチームメートにライバル心を抱いたり、葛藤したりする部分はどんなふうに受け止めていましたか?

西方の思いは、ものすごく理解できます。僕も若い頃は自分がオーディションで落ちた作品を見ることができませんでした。それぐらい悔しかったし、誰にも負けたくないという思いが強かったです。

――栄光を陰で支えたテストジャンパーを演じたことで、スタッフに対する思いが変わった部分はありますか?

例えば、取材現場で写真や動画を撮ってくれる方、一つの作品に携わる方たち、山田裕貴をこの作品で使ってみようと思ってくれる方がいないと僕は何もできない。必然的に僕1人では成立しないということを日常的に感じています。

だからこそ、その方たちのためにいいお芝居をしたい。そもそも表と裏という考え方も違うのかなと。スタッフの皆さんを裏の方たちと思ったことはないですし、みんなで一つのものを作っているという感覚のほうが強いです。

――これまで、いろいろなタイプのキャラクターを演じていますけど、お芝居をする時に心掛けていることは?

あまりお芝居はしたくないなと思っています。その人(自分が演じる役)が、ちゃんとそこに生きているという意識を強く持つことを大事にしています。今回の作品も実話ではあるんですけど、劇中のセリフは実際に言っていたことと全部同じではない。でも、その“うそ”を本物にする作業をしないといけないんです。

そのためには、見ている方に「あ、このキャラクターはちゃんと生きているんだ」と思ってもらえるぐらい入り込まないといけない。自分を消す作業が必要なんです。それがうまくいった時は知らぬ間に自然と言葉を発しているような感覚になります。

自分で作ろうと思っていなくても、その時のキャラクターの感情が顔に出ていることがあって。竜二さんを演じている時は結構多かったような気がします。

――今回の作品を通して感じたスキージャンプの魅力は?

実際に飛んだわけではないので、ジャンプ競技の全てを伝えることはできませんが、あのスタート台から見た雪景色は素晴らしかったです。風の強さなどを含む気候やスキー板のちょっとした滑り具合で成績が変わってくる。

実力だけではどうにもならないところもあるから本当に難しい競技なのかなと。撮影の時に生で選手たちのジャンプを見せていただきましたけど、風を切る音もすごいしスピードも迫力満点。人間が空を飛んでいる感覚ってどんな感じなのか興味があります。


◆取材・文=月山武桜

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