――「もっと自分の幸せを考えてもいいのでは?」と思うようになった……という一節がありましたが、山中さんにとっての幸せって?
人が喜んでくれること……じゃないですかね。でもその形も、変わってきています。最初は、「喜んでもらえるなら、命を削ってでもやる」という使命感みたいなものでやってたんです、(自身が大病を患い回復した後の)余生だし。
でもデビューから10年間バンドをやり続けて、自分たちの音楽を好きになってくれる人が増えて、「救われました」という声をもらえるようになると、「喜んでもらえて、自分も幸せ」という捉え方に変わっていって。誰かと一緒に喜んだり、誰かが幸せな気持ちになるって事が自分にとっての幸せなのかなって思います。
――自分が幸せになるためにすべきことは、何でしょう。
よくファンにも言うんです。「人のことを参考にするんじゃなくて、自分のことをよく知ることが自分の幸せへの近道だよ」って。何が幸せかって、人それぞれ。誰かと比べて「正解」を考えるんじゃなくて、自分がどういう時に喜びを感じたかを知ることが大事だと思います。
――「犬を飼い始めた」という項もありましたが、犬は山中さんを幸せにしてくれる存在のひとつなのでは?
可愛いんですよーー(ニコニコ)。犬を飼い始めて、ちょっとやそっとのことじゃ怒らなくなりました(笑)。何回もペットショップに行って、契約書を読んでビビって止めて……、飼うまでに1年かかりました。
運命の出会いだと感じて飼い始めたんですけれど、命を預かるのは大変。どんなに疲れて帰っても、お世話をしなくちゃいけない。「なんでこんなことせなあかんねん」って思いながら続けているうちに、心の豊かさや、命への愛情みたいなものを意識するようになって。そうしたら、ちょっとやそっとじゃ怒らなくなりました。昔はギターアンプを投げたりしてたのに(笑)。犬から教えられることは、多いですね。
――6月30日には、約1年ぶりの新曲「Red Criminal」がデジタルリリースとなりました。今作は、TVアニメ「SCARLET NEXUS」の第1クールオープニングテーマで、疾走感のあるギターとタイトなリズムが効いている楽曲は、勢いがありオーラルらしさに溢れています。同時に、山中さんが吐き出す言葉には、強さの中に切なさがあり、今日伺った著書のお話にも通じる、“聴いてくれる誰かのために”という思いも感じられましたが、ご自身は書かれる際にどんなことを考えていらっしゃいましたか。
この作品の脚本を読んだ時に、コロナ禍の今、みんなが思っていることと、主人公の葛藤がすごくマッチしているなと思ったんです。よく分からないウイルスが入ってきて、価値観が変わって、想像していた未来がどうなるのかもわからなくなってしまった今の時代。それでも人間はもがいて、自分で判断して、前を向いて生きていかなきゃいけない。「Red Criminal」を書く上で、それがキーワードになるなと思えたんです。
――確かに、歌詞からはアニメの世界観への共感も強く感じました。
「SCARLET NEXUS」の主人公は、自分の未来が絶望的であることをわかっている。でも、未来を変えるために自分の正義を曲げても闘うんです。それって、全ての人間に当てはまることじゃないかな?って。
――まさに今この時代だからこそ生まれた作品ですね。
そうですね。いい意味でアニメの世界観だけじゃなくて、今の世の中にも当てはまる。偶然かもしれないけれど、リアルとアニメ、どちらにも届くメッセージが書けたので、そこはすごく良かったなと思っています。
インタビュー&文=坂本ゆかり 写真=後藤利江
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