2021/07/11 12:00 配信
渡辺もまた、室内の限られたスペースをアクション監督・谷垣健治のしたいことができるような空間とすべく、さまざまな工夫を施している。
「室内なので刀を振ったら何かに当たるし、そこでかなり長時間戦う。それなら電飾があって、刀が当たったら電飾が切れて、そこから火が出てもいいし…」など、狭い空間だからこそできる工夫を施しながらアクションを練り上げていったとのこと。
「剣心と縁のラストバトルは、美術、装飾、アクション、撮影、照明の総合力が結集しています。アクションの営みも、そこで何が起きているか、1つ1つその理由を考え、みんなでアイデアを膨らませました。見たことのないものを作り上げたかったんです」と話す。
そんなシリーズの集大成とも言うべき「The Final」とは対照的に、「The Beginning」は江戸時代の終わりをダイレクトに描いた、シリーズの中では異色の作品。例えば剣心が冒頭で暗殺に行く対馬藩邸は、幕府の屋敷。
文化が何百年も続いたことによって、ルーティーンの仕事しかしなくなった腐敗した権力を表現するために、橋本は全体にカビのエイジングを施すなど、立派な屋敷が手入れも緩慢になって、さびれていく様を表現することで、権力の腐敗、時代の終わりの一断面を演出。
また、クライマックスの廃寺、そして雪山のシーンは、五感を失われた剣心の心情を、山を白い雪で覆い尽くすことで表現。最後は巴まで失ってしまう、全てを失って白い空間に剣心1人という見せ方をすることで、作品が悲しい恋愛映画でもあるという世界観を表現している。
「『The Beginning』は『るろうに剣心』シリーズの中では毛色の違う作品ですが、僕は一番好きですね。僕自身、本来は内側へ内側へと向かっていく世界が好きな作り手。ずっとやりたかったタイプの時代劇をやり切れた。今はそんな気持ちです。江戸時代を実際に知っている人はもういません。100人いれば、100通りの生き方があり、100通りの暮らしがあったはず。史実と向き合いながら、あらゆる人間の多様性を追求するのが美術。そのあたりも、ぜひ感じてほしいですね」という橋本。
渡辺も、10年間を振り返り「どのスタッフも、ギリギリのところで作業していたと思います。各部署とも、よくやり切ったなと。もし今回何か失敗したら、自分たちの10年を否定することになりますからね。3作で成功したことも全部、否定することになる。否定しないためにも、いろいろなことを考え、闘っていく必要がありました。30代という成長する過程で、このシリーズに関われたこと。これは本当に大きいです。やり切りました!10年間、ありがとうございました!それしかないです」と、コメント。
「るろうに剣心」の世界観を作り上げる上で必要不可欠な美術、そして装飾の妙。見る者に確かな説得力を持たせる匠の技が、1カット1カットの細部まで込められている。
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