“朝ドラ”こと連続テレビ小説「おかえりモネ」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)が、7月12日~16日に放送された第9週「雨のち旅立ち」で、第1部ともいえる宮城編が終了した。地元を離れて登米で就職した主人公・モネこと百音(清原果耶)だったが、気象予報士の仕事に興味をもって試験に合格、東京に行く決心をした。フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が、第1週から第9週まで主人公・百音の変遷を振り返りながら、演じている清原果耶の魅力を解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)
「おかえりモネ」の主人公・百音は第1話からずっと悩んでいた。何をそんなに気に病んでいるのかはっきり描かず、じょじょに明かされていく構成になっていて、ついに第9週の最終日となる45話で百音が涙ながらにそれまでためていた想いを家族に打ち明けた。
45話――15分×45=675分 11時間強をかけて慎重に描かないとならないほど百音の経験したことは重大で、簡単に解決できないことだった。他人の家に土足で入るような無礼を働かないように、慎重に丁寧に描いてきたドラマを主演の清原果耶はしっかり演じきった。
高校卒業後、生まれ故郷の気仙沼・亀島を出て登米の森林組合で働き始めた百音は、みんなとコミュニケーションをとることに困難はないものの、どこか虚ろな表情をしていた。
震災の時、仙台に受験の合格発表を見に行っていて家族や同級生たちと同じ体験ができなかったことを「何もできなかった」と後ろめたく思っていた。
震災前は活発で吹奏学部を立ち上げるほどの積極性もあった百音の心が、震災を境に塞がれてしまったのだ。
元から思い悩むタイプだったわけではない人物がふいにどうしようもない悩みに苛まれて元の自分に戻れない。それでも完全に外界と閉ざすのではなく、他者に対しては思慮深く接し、仕事も真面目に行う。
明るすぎず、暗すぎない。グラデーションになった感情を清原果耶はひたすら繊細に、透明感だけは決して失うことなく演じた。
百音には空もようのように多彩な顔がある。なんだかわからないミステリアスな雰囲気、他者に対する思いやり、仕事熱心さ、ちょっと天然ボケなところ、気象予報士の試験を三度も受ける忍耐力、合格して少しもった自信……等々と細やかに演じながら、多くの人と出会い、話を聞き、学び、自分の中できちんと整理をつけて語る言葉を見つけ、45話で家族を前に泣きながら話すときの、予想できないときに涙がこぼれそれを指で抑える手付きが、演技に見えないホンモノに見えて胸を打った。
百音の心に溜まっていた涙がどんどん溢れてきたように見え、それを外に出すことができて心底ホッとした。
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