「投げキッス」のエンジニアを手掛けたのは、東京事変の楽曲等で知られる井上うにだ。
「エンジニアも新しい方にお願いしたくて、井上うにさんに初めてお願いしました。最初の声が機械やウイルスっぽい感触なのはうにさんからの提示で。庭を見ながらミックスを聴いたんですけど、ウイルスから始まってどんどん世界が開けていって、不思議と庭の花がぶわっと咲いていくように見えて『うわっ』てなったんです(笑)。私から、カワムラさん、うにさんってどんどん生まれ変わっていった曲だと思います」
「私の仕事」は改めて自身の音楽活動と向き合っている楽曲だ。
「去年セッションした千葉くんという素晴らしいピアニストに弾いてもらいました。私はデビューするまでもずっと普通に仕事をしてきたので、仕事としては今後どうなるか分からないけど、おばあちゃんになるまでずっと歌うんだっていうことははっきりと分かったんです。
だから、コロナ禍でもそこに関しては焦ったりはしなかったんです。だけど、周りの仲間たちが自分のお店や会社を閉めなきゃいけないのを見て、『みんな自分の仕事に向き合ってる時だよな』と思って。それぞれが自分の仕事に置き換えて聴いてもらえたらないいなって思う曲になりました」
小気味よいギターのカッティングとピアノがフィーチャーされた「1の次は」では多様性が歌われている。
「去年悲しいニュースが増えている時期にカワムラさんと打ち合わせをしていて、『実はEmiちゃんもすごくいろんなこと考えてたりするから、こういう本読んだほうがいいよ』っていろんな本を教えてくれたんです。
それでHSPに関する本を読んで。確かに私は、1から2、2から3っていう風に考えればいいのに、1から2に行く間に、1.1、1.2、1.3ってすごく細かく考えちゃう。それが面倒臭いし、人とぶつかることもたくさんあるんです。でもそれはそれでいろんなタイプがいるんだから、自分がそう思ったなら1.1も大事にすればいいじゃんって思って書いた曲です」
今作を作ったことで見えてきたことについて、こう話す。
「毎年1枚アルバムを出してきてて、時間が結構ぎゅっとされてたけど、今回は時間があったので、みんなでセッションして何度も曲を書き直せたんです。今まではメロディーが入ってなくても歌詞がとにかく優先だったんですけど、今回はそれぞれが辛い状況で頑張ってる中で気持ちよく言葉が入ってくるために、メロディーにちゃんと乗る言葉を探して。
濃度を弱めずに強いままで当てはまる言葉を探すのが大変でしたけど、すごく勉強になりました。でもすごく楽になったというか。これまで、いろんなアーティストがいる中で自分らしさを見失わないためにはどうしたらいいんだろうって考えて、ぶれないように形を作ってきました。『この言葉とこの言葉だとしたら、今の私は絶対こっち!』って感じで選んできたり。あと、いつか素敵な女性になりたいっていう意味で、“日本の女”を掲げてきたんです。でも今は良い変化が起きているから時代だからこそ、私の意図とは別の意味で捉われてしまうこともある。だから、音楽がぶれないために”日本の女”を掲げるのもまた違うのかなって思ったんです。
みんな自分のことで必死だった時期があって、私が何をどう変えようとそれぞれの自由だなって思ったので、一旦いろんなものをベッてなくしてこのアルバムができた感じがします」
取材・文=小松香里
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