かつて生放送形式の音楽番組はテレビの主役だった。「夜のヒットスタジオ」(フジテレビ系)、「ザ・ベストテン」(TBS系)、「ザ・トップテン」(日本テレビ系)など、様々な音楽番組が毎週茶の間をにぎわせていたが、80年代後半から視聴率の低下が目立つようになり、次々と終了していった。現代の音楽番組における権威である「Mステ」も、近年は視聴率低迷に苦しんでいる。
こうした状況の中、音楽を届けるプラットフォームとして「THE FIRST TAKE」が果たす役割は大きい。
映像の視聴スタイルとして、テレビはフロー型であり、YouTubeはストック型だ。フロー型であるテレビ番組を視聴するためには、決められた放送時間中、テレビの前にいなければならない。もちろん、テレビ番組は録画や見逃し配信でも楽しむことは可能だ。しかし、ドラマやバラエティであればリアタイ視聴でなくてもその鮮度は保てるが、生放送の音楽番組となると、ライブ感がどうしても薄れてしまう。
一方で、「THE FIRST TAKE」は、ストック型のYouTubeにおいて、いかに再現性のない音楽を表現するかという課題と向き合い、“一発撮り”という解に至ったプログラムだ。つまり、いつでも視聴できる状態にありながら、生放送番組のような臨場感を味わえる仕様のコンテンツなのだ。しかも、アーティスト1組につき1曲を歌うというスタイルを採用している関係上、動画1本の再生時間は数分程度。長尺よりも“切り抜き型”を嗜好するいまどきのニーズにもマッチしている。
その結果、「DISH// (北村匠海) - 猫 / THE FIRST TAKE」、「LiSA - 紅蓮華 / THE FIRST TAKE」、「YOASOBI - 夜に駆ける / THE HOME TAKE」と、再生回数1億を超える動画を3本も輩出することに成功しているのだ。
「THE FIRST TAKE」は、現代のネット文化において圧倒的な影響力と話題性によって、今後もアーティストによるなんらかの発表の場・お披露目の場として活用され、“YouTubeのMステ”のような立ち位置を確かなものにしていくに違いない。