昨年、これまでの日常がコロナ禍によって失われことにより、我々は新たに非日常の世界を迎えることを余儀なくされた。しかし、現在はその非日常さえも日常化しており、ライブエンタメ業界においては、以前のような形で行われるライブこそが非日常化している。
そのことを考えると、今回のライブパフォーマンスには、このように世界が日常と非日常の間で変異し、その立場が循環していくことを受けて、これまでの方法だけに固執せず、別のプランを用意しておくのか、そして、その先で変異していくのかという問いに対するDEANの答えが反映されていたように感じる。
DEANは、これまでも常に新しい要素を自身の音楽表現に取り入れながら、時代の一歩先をいく音楽性を示してきたアーティストだ。そして、今、その先鋭性は新たな変異のタイミングを経て、ライブ体験のあり方の変化を示すまでに至っている。
そのような変異から生まれる未体験の表現は、もしかしたら観るものにとっては、戸惑いを生じさせるものなのかもしれない。でも、そのことを恐れる必要はないだろう。なぜなら千変万化する世界の中で生まれた『DEAN FUJIOKA "Musical Transmute" Tour 2021』には、変異=トランスミュートしていくことこそが今を生き抜く方法であり、それによって、新たな表現を切り開くというDEANの決意が込められているからだ。ツアー初日公演はそんなことを感じさせてくれる素晴らしいライブだった。これからも"Transmute"し続けていくツアーでは何度見ても新たな気付きが得られるかもしれない。
また、DEANはツアー開始に先駆け、今年12月に『History In The Making』以来、約3年ぶりのアルバムとなる3rdアルバム『Transmute』をリリースすることを発表している。
今回のライブで披露された新曲4曲も収録される同作の"Transmute"というタイトルには、「現代の混沌とした世の中で、予測不能な将来を生き抜くために“変異”していくことが大切である」というメッセージが込められている。それだけに今回のツアーは、ファンがその意味を紐解き、理解する上でも重要な役割を果たすことになりそうだ。
Text by Jun Fukunaga