「東京リベンジャーズ」はなぜ大ヒットしたのか?同時多発“短期集中”メディアミックスの可能性

2021/09/17 18:30 配信

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ヤンキーもの×実写映画の親和性

「映画『東京リベンジャーズ』おうちでプレミアムナイト」より●撮影:ザテレビジョン


実写映画の成功について補足すると、映画化にあたっての工夫もさることながら、本作がヤンキーものであったことも一助となったのだろう。漫画を実写映画化する場合、原作との見た目のギャップやストーリーの改変から叩かれることは多い。人気作品ほどその傾向は強く、読者もその例をいくつか思い浮かべられるのではないだろうか。

「東リべ」や、合計興収60億円を超えた「クローズZERO」シリーズ、50億円を超えた「今日から俺は!!」は現実世界のヤンキーを扱っており、ファンタジーやSFといったジャンルに比べて再現度を高めやすい。また“ヤンキー”は現代においてある種希少であり、大人世代にとっては懐かしく、若者世代にとっては新鮮に映るという時代になりつつある。

同時にヤンキーものは若手俳優を多くキャスティングしやすいというメリットもある。「東リべ」の場合、メインキャラクターには北村匠海(タケミチ役)、山田裕貴(ドラケン役)、吉沢亮(マイキー役)と人気の若手俳優を起用しながら、見た目は原作のイメージに忠実で、それぞれの熱量ある芝居も好評だ。

メディアミックスは「ステップアップ型」から同時多発の「短期集中」へ?


4月以降の半年間に映画・アニメを始めとするメディアミックス展開を集中したことが「東リべ」のヒットにつながったのは先に示した通り。しかしこれはある面では偶然であり、別の面では必然だった。元々、実写映画の公開予定時期は2020年10月だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で公開が延期されたために、原作・アニメ・映画の連携がより密になったといえる。

アニメが先行し、人気に火がついた最高のタイミングで映画が公開となった。6月にこれら3ジャンルがコラボレーションし、作品の舞台である渋谷でポスタージャックを展開したのは好例だろう。これまで多くの人気マンガはまずTVアニメ化され、それから少し時期を置いて映画化や実写化が公開されるという“ステップアップ”的な展開が一般的だった。しかし「東リべ」の成功を受けて、短期にメディアミックスを集中させるパターンも増えてくるかもしれない。

またTwitterでは原作者と編集部が共同運用する原作公式アカウントが積極的にメディアミックス作品の告知をしたり、描き下ろしイラストを投稿したりと一丸となって盛り上げていく様子が見られた。この姿勢はメディアミックス先のアカウントでも同様で、相互に情報を発信し合っている。この結果、たとえばアニメ化で増えたファンは自然に原作や実写映画の情報に触れ、また実写映画で作品を知った新規層がアニメや原作へ流入、という相互送客が発生したのだろう。これも、短期集中による相乗効果ゆえの盛り上がりと言えそうだ。

一般的にアニメの制作には2年かかるといわれており、早くからの仕込みが必要だ。実写映画の製作期間は規模によりさまざまだが、コロナ禍の現在においては公開時期の延期をする場合も多く、想定通りに事が進まないこともあるだろう。さらに、作品の反響は公開するまではわからない。しかし一極集中展開が実現でき、それに耐えられる“強度”を持ったタイトルであれば、短期集中のメディアミックスは非常に効果的なようだ。

テレビアニメは1期の放送終了を迎えるが、原作の「東リべ」は現在も漫画連載が続き、物語の途中だ。これだけのヒットになれば、当然アニメ、映画の第2弾にも期待できる。今後も「東リべ」のようなポテンシャルを秘めた作品が適切なタイミングで効果的に展開され、エンタメ業界を盛り上げてくれることを期待したい。

(文・はるのおと)