「ビリギャル」生みの親・坪田信貴が伝える、「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない理由

2021/11/24 20:00 配信

芸能一般

『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』(坪田信貴/SBクリエイティブ)

エンタメ好きとしてチェックしておきたい話題の本やマンガ・アニメ情報を「ダ・ヴィンチニュース」の協力を得てお届け。今回取り上げるのは、「ビリギャル」の生みの親・坪田信貴氏の著書『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』。

相手を否定する表現など、子どもや部下に対するNGワードとして広く認識されている言葉はある。ただ、良心を持って使っているつもりの言い方の中にも相手の未来を狭めてしまう言葉があることを、本書『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』(坪田信貴/ SBクリエイティブ)は教えてくれる。

著者は、「ビリギャル」の生みの親である坪田塾塾長の坪田信貴氏。子どもが自分の可能性を信じ、自ら道を選んで生きていく力を養うために必要な声かけや、グローバル化が進む現代の子育てに必要な考え方を綴っている。

心理学の知見を活かしながら、これまでたくさんの子どもに学ぶ楽しさを伝えてきた坪田氏は、「言葉ひとつで人は変わる」と語る。しかし、親がしつけのためと思って使っている言葉や、子どもに対してよかれと思ってかけている言葉が、実は子どもの可能性をつぶしていると言う。

たとえば「水たまりがあるからよけなさい」というように、子どもが失敗しないように先回りして使う言葉は、子どもが失敗して自ら学ぶ経験を奪う。そのため、チャレンジする心が育たないという。また、ほめ過ぎると調子に乗ってがんばらなくなると心配して、成果が出てもほめない親もいる。これは、子どもが達成感を得る機会を奪い、さらには、自分は存在していていいんだという、心のセーフティネットを失う可能性があるとも著者は指摘している。

坪田氏は、子どもの可能性を狭める声かけを指摘すると同時に、子どもがその言葉をきっかけにイキイキと輝く言い回しも伝えている。たとえば、「もうスマホはやめなさい」という言葉は、親がそのときの都合や感情で罰しようとしている言い方のためNGだ。その代わりに良いのは、時間に関するルールを一緒に作ること。「どれくらいならいいと思う?」と一緒に考えることで、ルールに対する納得感も得られる。さらに、ルールは守るものではなく作るものという感覚が養われ、既存のルールの合理性を問い直す姿勢や、社会や政治に主体的に関わる意識も育めるという。

そのほかにも、「苦手だね」という言葉は相手に苦手意識を植え付けるため避けたほうがいいことや、自分で考えさせる声かけのコツなど、子育て世代だけでなく、人を育てるビジネスマンの心にも響くアドバイスが溢れている。AIの進化・グローバル化が進む中では、「やめなさい」と制限をかけるのではなく、可能性を広げる声かけやコーチングにシフトしていく必要があるという教育論もとても興味深い。

本書は、やってはいけないけどついやってしまう声かけは、日本社会の問題を反映していることも伝えている。たとえばタイトルにもある「人に迷惑をかけてはいけない」は、一般的には模範的な指導法として使われている言葉だろう。しかし、この言葉によって子どもは人に助けを求められなくなるという。世界で教えられているのは、「困っている人を助けなさい」という積極的道徳だが、日本に根付くのは、人に助けてもらうのを避ける消極的道徳。その背景にあるのは、何かと人が人を責めがちな日本の風潮だと著者は指摘する。この社会を変えていくためには、「人に迷惑をかけるな」ではなく、「迷惑はお互いさま。困っている人がいたら助けよう」と子どもに伝えることが大事だという。子どもにも配慮を強いる社会の心の狭さに暗い気持ちになるが、子どもや若手にかける言葉から日本社会を変えていけるのではないかと思うと、声かけをポジティブに考えられる。

そして本書には、随所に著者の優しさが滲み出ている。親は完璧ではなくていいことや、親も本音や弱いところを見せるのが子どもにも良い影響があること、未来が不確実な時代は「教育しよう」ではなく「子どもと一緒に冒険しよう」という姿勢が大切であることなど、勇気をもらえる言葉も多い。声がけの持つパワーに身が引き締まりつつも、温かいメッセージの数々に心が緩む1冊だ。

文=川辺美希

「ちゃんとしなさい」「言うことを聞きなさい」「やればできるよ」など、「迷惑をかけるな」以外にもついやってしまいがちな声がけがNGである理由と、その言い換え例がわかる本作。子育て世代だけでなく、人を育てるビジネスマンにとってもためになるアドバイスが満載だ。