――今回、夫婦役ということですが。
天海:はい。以前、ドラマ(「離婚弁護士II〜ハンサムウーマン〜」[2004年、フジテレビ系])で共演させていただいた時、松重さんは居酒屋の大将を演じられていたんですが、私に恋焦がれるという役で(笑)。
松重:そうなんです。ひたすら偏愛している板前をやらせていただきました。
天海:今回、やっと夫婦になれましたね(笑)。
松重:はい。それと、舞台でいうと「パンドラの鐘」(1999年上演)という作品がありまして。
天海:同じ脚本を野田秀樹さんと蜷川幸雄さんのお二人が違うキャストで演出するという作品でした。
松重:僕は蜷川版の“ハンニバル”という武将役で、天海さんは野田版の“ヒメ女”という役だったんです。だから、姫に恋焦がれ、屈折した偏愛がついに成就したのが「老後の資金がありません!」なんです(笑)。
天海:はい、ついに!
――久しぶりに共演されていかがでしたか?
天海:現場に松重さんがいてくださるだけで、どんなに心強かったか。私がどんどん突っ込んでいっちゃう性格なので、松重さんが現場のことを冷静に見てくださって助かりました。撮影現場では日照関係の問題とかがありますし、みんなで話し合っていてもなかなか結論が出ないことも多いのですが、「松重さん、これはどう思いますか?」と聞くと冷静に答えてくださって。
松重:僕にとって天海さんは戦国時代の三大武将のようなものなんですよ。この役は織田信長かもしれないし、豊臣秀吉かもしれない。あるいは徳川家康かも。天海さんは座長以上の存在感がありますから、現場のスタッフ、キャスト含めて、みんな「天海さんに付いていこう」っていう頼れる武将に仕える家臣になれるんです(笑)。天海さんのすてきなところは、全部自分でジャッジするんじゃなくて、「松重、ここはどうなんだ?」という感じで委ねてくれるんです。「殿、ここは日照の問題がございますので、今は上手(かみて)に動いた方がよろしいかと!」と答えると、「分かった! そのようにいたそう」と言われるので気持ちいいんです(笑)。
天海:いえいえ(笑)。
松重:映画は強いリーダーシップを執る人がいて、「こういう映画にするんだ」という旗印の下に集結していくことが僕ら俳優にとってよりどころになりますし、楽しいし、それで作品が面白くなっていくという確信があります。そんな戦国武将に従う一の家来というポジションが僕は非常に心地よく感じました。
天海:私はワチャワチャしていて。松重さんを筆頭に、皆さんにすごく助けていただきました(笑)。
――親の葬儀代、子どもの結婚費用、自分たちの老後の資金など、現代日本が抱える“お金”の問題を取り上げた作品となっていますが、台本を読んだ時の感想を聞かせてください。
松重:お金のことって、僕らの世界では口にすること自体タブーだったり、はばかられる話題だったりするんですが、ちゃんと考えていかないといけない問題でもあると思うんです。老後のことだけでなく、今の日本の経済自体にも不安がありますし、すでに現実問題なんですよね。
コロナ禍で家計も含めて、いろんなところで相当ダメージを受けてきて、少しコロナが落ち着き始めている中、あらためて“老後の資金ってどうなの?”というのが自分たちの現実問題として突きつけられている状態だなって。これはエンターテインメントですから面白おかしく描かれていますが、現実の荒波の中で家族が翻弄(ほんろう)されながらもお母さんの愛情に包まれていて、その愛情の物語でもあると思うんです。
天海:私も最初に台本を読ませていただいた時、ゲラゲラ笑ってしまったところがたくさんありました(笑)。画の構成とかは監督さんが作ってくださいますけど、最初に作品に触れる時の印象は、初めて作品を見る時のお客さんと同じじゃないですか。「ここで笑った」とか「こういう表現が面白かった」とか、最初に読んだ時の印象や感覚を大事にして演じようと思いましたし、同じように見てくださった時にゲラゲラ笑ってもらえたらいいなって。
篤子さんと章さんの関係性もすてきだと思いました。結構言い合う場面があるんですけど、その根底にはちゃんと信頼関係と愛情があるのを感じます。表面上はピリピリしていても、水面下ではとてもつながりが深い家庭だと思いましたので、それもちゃんと伝わると良いなって思いましたね。
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