――印象的なシーンやセリフも多いですが、特に印象に残っている場面は?
松重:嫁(天海)、姑(草笛光子)、小姑(若村麻由美)、向こうの旦那(石井正則)が集まって丁々発止で家族のことについての本音とかがどんどんあからさまになって、殻がはがれていくシーンがありまして。
天海:私もそのシーン、演じていて楽しかったです。
松重:そこは長回しで撮っていたんですが、「こういうふうになるだろう」みたいに動きや感情が予測できるものばかりだと見ていても面白くないと思うんです。予想外の感情の流れが出てきて、変な動きをしちゃったりするのをドキュメンタリー的に押さえることで、“ここが人間のバカバカしさだよな”って思えたりしますし、コメディーとしても面白くなります。このシーンにそれが色濃く出ていた気がしますね。
天海:例えば、そのシーンの中で篤子さんが泣けてきて、章さんに「ティッシュを取って」って頼むんですけど、章さんは妹(若村)に渡そうとするから、「こっちに渡せ!」っていうところとか(笑)。
松重:ものすごい修羅場なんですけど、やってることはバカバカしかったり。これが人生なんだなって気がするんです。ものすごい悲劇も深刻な局面も、裏から見ればバカバカしい喜劇にしか見えない。その落差みたいなものがコメディーに仕上げてくれます。
――理想の“老後”についてはどう思われていますか?
天海:草笛さんといろいろお話をしている時に「いつから老後なの?」って聞かれて、「いや!分からないです!」って(笑)。自分が老後だと思ったら老後なのかな?とか考えたんですけど、草笛さんに“老後”はないでしょう?
松重:ないない! サラリーマンの方は定年とか区切りがありますけど、僕らの場合はそういう区切りがないので、「やりたければいくつまででもやってください」という感じで、88歳になられても草笛さんのように最前線で素晴らしい演技をされていると、僕らは“老後”なんて口が裂けても言えないです(笑)。
天海:言えない、言えない(笑)。ありがたい反面、怖いなって思ったりします。
松重:無理矢理リタイアするしかないんです。でも、そうするとあらぬ詮索をされるんですよね。
天海:「何があった?」ってね。
松重:「病気になった? それとも宝くじでも当てたか?」とか。
天海:それこそ、今回の作品には草笛さんの他にも篤子さんの両親役で竜雷太さんと藤田弓子さんとか、たくさんの先輩が出てくださっていて、いつまでもいろんなことに興味を持たれていて、人間としてかわいいなって思いました。それに私たちよりもパワフルなんです。竜さんなんてウエットスーツを着てるシーンがあるんですけど、上半身を見せていて。
松重:腹立つくらいいい体してるんです。
天海:そういう先輩方の姿を見てしまうと、「疲れた」って言えないです。楽しみながら熱心にお仕事されている姿を拝見していると「自分はまだまだだな。もっと頑張んなきゃ!」って。「負けてられないな」っていう感じで元気ももらえた気がしましたし、「どう老後を過ごしたいか」よりも、「あの人たちの域に行けるように頑張りたい!」って思うようになりました。
松重:草笛さんや竜さんのようになるには、今から準備と努力をしないといけないと思いますし、いろんな積み重ねによって、老“後”にならない、その前で終わっている人生が作り上げられるんじゃないかなと思いますね。
天海:その域に行くのは難しいことだということも分かっています。でも、私が思わせていただいたように、もう少し年齢を重ねていった時に、いつか私もその先輩のようになれたらいいなと思います。
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