【漫画】「ぐるじい…」実弟を16歳で亡くした辛い過去を描いた作品に反響続々。漫画に込めた作者の思いとは

2021/12/30 10:00 配信

芸能一般 インタビュー コミック

弟を亡くした実話をつづった「16歳で帰らなくなった弟」が話題。画像提供/きむらかずよ

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、漫画家のきむらかずよさんが弟を交通事故で亡くしたつらい実体験をエッセイ漫画として描いた『16歳で帰らなくなった弟』をピックアップ。同作は「レタスクラブWEB」での連載時に3600万PVを獲得し、2021年10月には書籍化も果たした。この記事では、作品に込めた思いや読者へのメッセージなどを作者のきむらさんに伺った。

たった1本の電話で崩れてしまったあたりまえの日常

お酒を飲むと財布のひもが緩んでしまうマイペースな父。肝っ玉の据わった頼れる母。バイク好きで少しやんちゃな弟。当時反抗期を迎え素直になれないでいた17歳のきむらさんはそんな家族に囲まれ、ありふれた幸せな生活を送っていた。

しかし、ある日突然警察から電話が。弟がバイク事故にあったことを知らされ、急いで病院に駆けつけるも、すでに息を引き取った弟の姿を目にする。弟が事故に会う前に何か不吉な予感を抱いていたきむらさんは、そのことを伝えなかった後悔や、突然の弟の死を受け入れられない自分、家族を傷つける心無い周囲の目線や噂話に苦しみ、大人に対して不信感を抱くようになる。家族もまた、弟を失った深い悲しみから立ち直れずにいた。

しかし、一方でそんなきむらさんに手を差し伸べてくれる友人や学校の先生がいた。自分を支えてくれようとする人の存在に気付いたきむらさんは弟のためにも前に進もうと決意する。

10月22日(金)に発売された書籍版で描かれている16話以降のエピソードでは、弟の友人の証言や警察の調書から明らかになった事故の真実、きむらさん家族が再び立ち上がり歩き出そうとする姿が描かれている。

作者が弟を亡くしたつらい過去に向き合いながらも、当時の感情や家族の様子をありのままに描き切った本作。あたりまえの日常が決してあたりまえではないこと、誰かと言葉を交わすことができる日々の幸せに気づくきっかけを与えてくれる。気になる人は一度読んでみてはいかがだろうか。

「描いてよかったんだ」つらい過去の記憶と向き合った作者がたどり着いた答え

――『16歳で帰らなくなった弟』はご自身のつらい実体験がもとになった作品ですが、作品化しようと思ったきっかけや思いがあればお教えください。
コロナ禍で時間がたくさんできて、今ならじっくりと描けるんじゃないかと思ったことがきっかけです。

――特に思い入れのあるシーンやセリフがあれば理由と共にお教えください。
1番最初の家を出ていく2人のエピソード(第2話)です。スローモーションのように記憶に残っていて、この時の思いを描きながら自分を浄化していました。もうひとつは、リアルな事故のシーンです。バイクが滑っていったり、「ドッ」という描き文字を書いたり、もう、描きながら辛くて、描いてる時って、その時に入り込まないと描けないので、「ぐるじい…」と思いながら描いていました。

――書籍化にあたって連載分に加えて70ページを書き下ろされていらっしゃいますが、どのようなエピソードが描かれているのでしょうか?
たまたま事故現場を目撃した弟の先輩が母の元を訪れ、事故当時の知らなかった真実や、弟の最期の言葉なども教えてくれました。ずっと長い間真実だと思っていたことも、書籍を書くにあたって調べた結果、間違って解釈していたこと。そして父との確執、弟の死から立ち直っていく家族を詳細に描きました。

――ブログやTwitterでも作品をアップされていますが、読者やフォロワーからの反響はいかがでしょうか?
(書籍で書き下ろした)「いってらっしゃい」のエピソードは本当に多くの方に共感していただいて、「私も言葉がけを大切にしています」と言っていただいた時はうれしかったです。同じきょうだいを亡くされた方には「きょうだいからの視点で家族の死を描いたものはなかったので、描いてくれてありがとうと言いたいです」とメッセージをいただき、描いてよかったんだと思えました。

――『16歳で帰らなくなった弟』以外にもエッセイ漫画を執筆されていますが、ネタを考える、漫画を描く際にこだわっていることがあればお教えください。
「言葉」を大切にしています。読んだあと、何か心に残る言葉があれば嬉しいな、と思っています。

――きむらさんは漫画家・イラストレーターとしてだけではなく、保育士としてもご活躍されていますが、両立するうえで気を付けていることなどがあればお教えください。
規則正しい生活を心がけています。なるべく小学生の子どもと9時すぎには寝て、5時までには起きます。基本的にあまり体力がないので、ここが崩れていくと全てがガタガタになっていきます(笑)。

――今後の目標や展望、チャレンジしてみたい漫画のジャンルなどがあればお教えください。
自分の物語を描くのも楽しいですが、自分ではない方のドキュメンタリーも描きたいです。人の心に寄り添えるような作品を描いていきたいです。