では今回のネタが生まれた背景には何があるのだろうか。「決して『M-1』や吉本さんをいじろうとか、そういう気持ちではないんです」と都留は否定する。「準々決勝は阿部寛さんのモノマネで出たかった。阿部さんは役柄で社会的悪を暴くじゃないですか。『ドラゴン桜』でもうまく生きていくために生徒を東大に入れようとする。それならばお金を払って『M-1』を見に来ている人たちを生徒に見立て、是非、阿部さんのように授業がしたい、と。『ドラゴン桜』のような授業が見たいはずだ、と。僕らとお客さんの共通項が『M-1』なので、ああいうネタになりました」
このほか彼らが大学お笑いサークル(早稲田大学お笑い工房LUDO)に所属していたことにもルーツがある。ここではラランドのようにまっとうに面白い漫才を作るコンビもいたが、言ってはいけない"あるある"を言う"反則祭り"の文化もあったという。また「仲間内で『M-1』決勝の10組中9組が吉本芸人だよね、みたいなことはよく笑いのネタになっていたんです。でもこの感覚って、もしかしたら視聴者の皆さんも同じかもしれない。それもきっかけの一つでした」(都留)
かくしてこれがSNSを中心にバズった。近年はコンプライアンス意識の高まりなどもあり、人を傷つけない笑いが主流だ。だが過去にはビートたけし、現在でも爆笑問題の太田光のような“危ない”ことを笑いにする芸人はいる。「元々、お笑いの原点ってアンチテーゼであったり、反体制だったりだと思うんです。そういう意味ではあのネタは“反則”ではなく王道なのかも」(尾身)「でも僕ら自身は特別危ないことをやろうとしたわけではない。あくまで僕がモノマネする“阿部寛”が都市伝説を思い込みで言ったに過ぎないという形。ネタとして昇華したつもりです」(都留)
惜しくも敗退したが、来年も「M-1」へ出場する気は満々だ。「『M-1』は芸人にとって売れるための大きなチャンス。一方で絶対的な基準というよりも、あくまでもその日その場で一番空気を掴んだコンビが優勝する大会だと思うので、その点がもっと伝わるといいと思っています。そんな中でいいなと思ったのが、昨年の敗者復活戦。敗者復活は観客投票なので、ファンの数が圧倒的なミキさんが圧勝するかと思ったんですが、場の空気を最も掴んだインディアンスさんが決勝に。視聴者の方が“人気”だけじゃなく“その場の面白さ”でお笑いを見るようになった期待が感じられた瞬間でした」(都留)
「M-1」優勝はやはり目指したい?と尋ねると、意外にも2人は顔を見合わせた。「僕は優勝を目指すというよりも、決勝に出たい。決勝のテレビでああいう(準々決勝のような)ネタをやって、また『反則』って言われたいですね」(都留)「『M-1』はやっぱり影響力が桁違いの大会なので、その決勝で『反則』なんて言われた日には芸人冥利につきますよ」(尾身)
都留は阿部寛やウッディのほかにも大泉洋、ヒャダイン、吉田麻也、森泉などのモノマネレパートリーがある。だがモノマネ芸は一時的にブレイクしやすい一方、人気が長続きするのは難しい。この点をぶつけてみたところ「その悩みはありますね。来年どうしようといつも思っています」と表情を引き締めた。「最近はメディアの消費が早い。僕もYouTubeやTikTokにモノマネ動画をアップしていますが、よく考えてみると消費を早めている。自分で自分の寿命を短くしている。本末転倒です」(都留)
尾身も危機意識を持っている。「僕たちのYouTubeチャンネルも、ラパルフェのファンというより、阿部寛のモノマネを見たくて来る人が多い。だからまだモノマネ以外のネタはアップしていない。しっかりラパルフェのファンを獲得するのが課題です」(尾身)。その為、尾身も相方に引っ張ってもらうだけでなく、「僕はネタを書いていないので、できるのは体を張ることかなと。『アメトーーク!』(テレ朝系)の“運動神経が悪い芸人”に出たい。あと落とし穴トラップとか。国会議員の息子がガッツリ落とし穴に落ちる絵って面白くないですか?」と将来のビジョンを語る。
「僕たちが若手で“反則代表”と言われている今がチャンスだと思っています。昨今は忖度という言葉が頻繁にいわれていますが、その中で“反則の笑い”は忖度を減らすなど世の中をよくするかもしれません」(尾身)
YouTubeチャンネルも今回の注目で大幅に登録者数が増えたという。そんな彼らが予想する今年の「M-1」優勝は…?「今年はやかましい系が多いんですよ。そんな中、オズワルドさんは静かな漫才、大きな声の漫才、どちらも点が入る。優勝はオズワルドさん」(都留)「真空ジェシカさんやランジャタイさんがいることで、仮にこの2組が最初か最後に固まって出たら、場の空気が変わると思う。そうなると荒れるし、審査員の方々の判断もバグる恐れが。そんな空気の中ではモグライダーさんが強いんじゃないか」(尾身)
今年の「M-1」決勝を見るのが「楽しみ」と2人。彼らが将来“反則という名の王道”で天下を取っている姿に期待したい。
(文/衣輪晋一)
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