二つ目のキーワードは「扉を開いていくのではなく、閉じていく物語を描きたい」。「何かを始めるより終わらせることの方が難しいと思うんです」という言葉を発し、「映画もそうですし、多くの仕事もそうだと思います。恋愛や家族関係など、生活の中でも終わらせることの方が難しかったりします。今、少子高齢化が進んでいるこの国にとって、いろんな出来事を始めるより、閉じていくことの方が難しいと感じることが多くなりました。今作るべきものは、いろんな可能性を開いていく物語ではなくて、一つ一つ散らかってしまった可能性をもう一度見つめてキチンと閉じていく。それによって次に進み、本当の新しい場所を見つける。そういう物語を作るべきだと考えました」と新作の核となるテーマを伝えた。
そして、三つ目は「映画館に足を運びたくなる理由となる作品を作ること」。「昨今、配信が全盛で、僕自身も寝る前に『今日はこのドラマを観よう』とか毎晩のように配信を楽しみにしています。ただ、やっぱり映画館というのは人間の持っているある特別な能力を発揮させてくれる場所なんじゃないかと思うんです。例えば、感情移入することだったり、物語に没入する能力だったり。映画館に足を運んで暗闇の中に座って集中して大きなスクリーンを観るということで、そういう能力を発揮して物語に入り込めると思うので、“すずめがいるから映画館に行きたい”と思っていただけるような映画を目指したいです」と、映画館の大きなスクリーンで観る素晴らしさをアピール。
質疑応答で、最新作は「君の名は。」「天気の子」と繋がりがあるのかを聞かれると、「アベンジャーズ的なことを期待してらっしゃる方がいるのは知ってますけど(笑)、直接的には繋がっていないです。過去のキャラクターが出てくるかは今はまだわからないんですけど、世界線は繋がっていません。新しい物語です」と回答。今作の中での新しい挑戦については、「すごくたくさんあるんですけど、言えるのは“アクションムービー”であることです」と明かした。
会見には「君の名は。」の主人公・宮水三葉を演じた上白石萌音と「天気の子」のヒロイン・天野陽菜を演じた森七菜もゲストとして登壇。ヒロインの声優はまだ決まっておらず、オーディションもこれからということで、上白石は「七菜ちゃんと『オーディション受けない?』って話をしてたんです」と控室での会話を明かすと、新海監督は「二人ともオーディションに強そうじゃないですか」と少し焦った様子だったが、森が「選ぶのは新海監督じゃないですか。私と上白石さん、どっちを選ぶんだろ?って。先輩ですけどそこは無礼講でって話をしてたんです(笑)」とイタズラっぽい表情で追い討ちをかけた。
最後は「現在、スタッフ一同鋭意製作中であります。今、この瞬間もスタジオで作業を進めてくれています。たくさんの人を代表して、とりあえず僕が今日はここに立たせていただきましたけれども、アニメーションは総合力ですので、僕たち、望みを持ったスタッフが集まって、他には観られないような映画を届けたいと思っております。公開はまだ少し先ですが、どうか皆さん、たくさんの方に観ていただけることを願っております」という挨拶で締めくくった。
映画「すずめの戸締まり」は2022年秋に全国ロードショー。
◆取材・文=田中隆信