選んだ楽曲の共通点は“LOVE”…5つの愛のかたち――『woven songs』諏訪部順一インタビュー

2022/01/21 18:00 配信

音楽 インタビュー

諏訪部順一※提供写真

エンタメ好きとしてチェックしておきたい話題の本やマンガ・アニメ、音楽情報をダ・ヴィンチニュース(https://ddnavi.com/interview/899123/a/)の協力を得てお届け。今回取り上げるのは、カバーミニアルバムシリーズ「woven songs」の「COVER ~LOVE~」収録5曲を歌い上げた声優・諏訪部順一

 名曲に新たな魂が吹き込まれる。J-POPの名曲を声優たちが歌うカバーミニアルバムシリーズ『woven songs』。4人の声優が、これまで親しんできた名曲をそれぞれ5曲ピックアップ。その名曲へリスペクトを込めて、まるで役を演じるかのように歌い上げた。

 この『woven songs』のリリースに合わせて、4人の参加声優にインタビューを実施。それぞれの楽曲に込めた思いを語ってもらった。

 第2回は、諏訪部順一が登場。演技をはじめ、自身も積極的にクリエイティブにコミットし、印象的な作品を生み出し続ける彼が選んだテーマは『COVER~LOVE』。諏訪部順一が紡いだ、5つの愛のかたちとは――。


どの楽曲も一回聴いただけで耳に残る歌詞、パワーフレーズがあるのがポイント


──今回のカバーアルバム、その名も『COVER』ですけれども、この作品に参加されることを決めた経緯と、制作に臨む前にどんな作品にしたいと諏訪部さんがお考えになっていたのかを聞かせてください。

諏訪部:主に平成以降にリリースされた、ちょっと懐かしいくらいの楽曲の中からカバーをする企画ということでオファーをいただきました。楽曲のセレクトや、アレンジの方向性などをこちらで決められるというお話だったので、自由度も高く面白そうだと思い参加することに。こういうカタチで掘り起こすことで、過去の素敵な楽曲を自身も改めて深く味わうことができますし、その魅力をより多くの人に知ってもらうきっかけになるかもしれない……そんな風にも思いまして。

──諏訪部さんのテーマは「LOVE」ということですが、このテーマの設定に諏訪部さん自身がどのように関わられているんでしょうか。

諏訪部:歌ってみたい楽曲を書き出していき、その中から自身で選ぶことにしました。単なるフェイバリットということではなく、縦軸となるような何かしらのコンセプトに沿ってセレクトしたほうが良いと思ったのですが、結果的には選んだ楽曲の共通点を見出して「LOVE」にしたという感じです(笑)。愛や恋はドラマ性の高いテーマ。ラブソングは多くの人のハートを掴むものが多いですからね。

──5曲をセレクトした理由とは?

諏訪部:どの楽曲も一回聴いただけで耳に残る歌詞、パワーフレーズがあるのがポイントですね。声優やナレーターを生業としていますし、自身も作詞も行なっているので、魅力的な言葉には目がなくて(笑)。それと、自分の声や歌い方がハマりそうな気がする……カラオケなどで歌った経験があり、ある程度の完成ビジョンが浮かんだこともセレクト理由です。すべてカバーの許諾が取れて本当によかったです。

──すべてリスナーとして親しまれてきた楽曲だと思いますが、たとえばどんな場面で聴いていた曲たちなのでしょう? 自宅でゆっくりしているとき、ドライブをしているとき、など。

諏訪部:今回セレクトした5曲はすべて90年代の楽曲です。大学生から社会人へ、そして脱サラして声の仕事をはじめた、そんな頃にヒットしていたナンバー。当時、音楽を聴くのは主に移動の時でした。通学通勤の電車でヘッドホンステレオやポータブルCDプレイヤーを使って。iPodが発明される前の話ですから(笑)。そして、クルマを運転している時ですね。20代に入ってから親しんだ楽曲たちなので、子どもではなく、どれも大人の感性で向き合って「グッときた」感じです。

──確かに、選ばれた曲のほとんどが、大人が好きな楽曲、というイメージがあります。

諏訪部:ひと口に「LOVE」と言っても、いろいろな形がありますからね。“バンザイ”のようにド直球で愛を歌うものもあれば、“愛撫”のように複雑な感情が入り混じったアダルトテイストでディープなものも。そして、ラブソングはハッピーなものばかりとは限りません。むしろ別れを描いた悲恋ストーリーの方が、経験重ねた大人のハートには刺さるもので。5曲を順番に続けてお聴きいただくことで、全体としてさらにひとつの物語性を感じていただけるとうれしいですね。

──事前に“情熱”“恋しくて”“愛撫”の3曲を聴かせてもらって、どれもほんとに素敵でしたが、いちリスナーとしては“恋しくて”の諏訪部さんのボーカルに、ぞくぞくするような感動がありました。

諏訪部:ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると幸いです。改めて楽曲と向き合い、歌ってみて思ったのは、やはりカラオケで歌うのとはわけが違うな、ということでした。私的な娯楽ではなく、作品として形にしなければならないわけですから。楽曲に込められた作詞作曲者やオリジナル歌唱者の思いなども掘り下げる必要があのではないかと思い。どの曲も本当に難しかったです。しかし、その作業を経たことで、それぞれの楽曲の持つ魅力を今まで以上に感じられるようになった気がします。

──先ほどおっしゃったようにカバーはカラオケとは違いますし、単純にコピーするのではなく、リスペクトを大前提としてカバーする方自身の表現がそこに入っていく必要があるのだと思います。そのために諏訪部さんが意識していたのはどういうことでしたか。

諏訪部:何よりもまず大切にしようと思っていたのは、オリジナルをリスペクトする気持ちですね。楽曲のアレンジに関しても、大幅にテイストを変えるというのもアリというご提案をいただいていたのですが、もともと好きな楽曲たちなので、出来るだけオリジナルに近づける方向で作っていただきました。結果、自分的に一番収録が大変だったのは「バンザイ」でした。

この曲が持つ魅力を分析していくと、トータス松本さんの「味」が非常に重要な要素だと思うんですよ。それに、歌詞の世界の主人公と、素の自分の性質が大きく異なっていて。自分にはないテイストだからこそ魅力を感じるというのもあると思うのですが、やるとなるとこりゃ大変(笑)。

──確かに、“バンザイ”は圧倒的なポジティビティの曲ですもんね(笑)。

諏訪部:体育会系というか、素朴というか、熱量がすごいですよね。パンツ一丁で「よろしくお願いします!」みたいな感じで(笑)。格好良く歌いこなすには豪胆さが必要でしょう。なんて言うか、男から好かれる男、「漢」って書くタイプの人に似合う曲だと改めて思いました。

──歌詞を咀嚼したり、深く理解しようと試みることで、歌われた方のパーソナリティが改めて伝わってくる部分もありましたか。

諏訪部:そうですね。特に今回、中森明菜さんの“愛撫”以外は、歌唱されている方が作詞をされている曲なので。「どういうことを考えながらこの詞を書いたのだろう」と想像をめぐらせました。自分も作詞をするので、書き手の感覚・目線から改めて楽曲を眺めるという作業はとても楽しかったです。

諏訪部順一※提供写真

(音楽は)ちょっと凹んだ時など、まだ何者でもなかった頃を思い出して、「もう1回頑張ろう!」と自分を奮い立たせるのに効果的


──レコーディングをしていて楽しいと感じた部分、難しいと感じた部分をそれぞれ教えていただけますか。

諏訪部:すべて難しくはありましたが、それは同時に楽しくもあり。どれも自分で選んだ、自分が素敵だと思う楽曲でしたし。自分は正直、レコーディングってあまり好きじゃないんですよ。譜面通りに歌うことに窮屈さを感じてしまうことが多く。「しんどい」の方が勝ってしまうんです。しかし、大変なことを乗り越えて出来上がった音源を聴くと、大きなことを成し遂げた充実感を味わえるというか(笑)。聴いてくださった方から好意的なご感想などをお寄せいただけると、とてもうれしいですしね。自分の企画で楽曲制作を行うときは、いつも編集にも携わっていまして。トラックダウンやマスタリングにも参加してきました。学生時代、自主制作映画をやっていた人間だったりするので、スタジオで行うポスプロ作業って大好きなんです。

──今おっしゃったように、諏訪部さん自身にはものづくりをしていきたい気質、志向がおありになると思うんですけども、そういった経験が今回のレコーディングに活きた部分はありますか?

諏訪部:自分の目指すもの、ああしたいこうしたいというビジョンを各セクションのみなさんに明確に伝えることができるというのは、これまでの制作経験があるからこそだと思います。サウンド面もですが、ジャケットデザインなどに関してもこちらからあれこれご提案をさせていただきました。

歌というのは要するに、言葉をメロディにのせて発しているものなわけで。言葉である以上、そこには何らかの感情がのっている。つまり、歌うというのは、演じるということでもあるのではないかと思うわけです。そうなれば、声優として日々活動している自分のフィールドで戦うことができます。言葉の持つ意味、描かれる世界を、声で表現するのが本業ですから。ミュージシャン、シンガーの方々がどのようなアプローチをされているかはわかりませんが、声優だからこその歌というものもあるのではないかと以前から思っていまして。今回もひとつひとつの言葉を大切にして歌ったつもりです。

──現在の諏訪部さんの日常の中で、音楽はどういう存在ですか?

諏訪部:気分を上げてくれたり、なごませてくれたりするものですね。ムードを切り替えるスイッチという感じです。移動中に音楽を聴いて、次の現場に入る前に気分のリフレッシュをする、なんてこともよくあります。それと近頃は、10代の頃に好きだった楽曲や、流行っていた楽曲を聴いたりもしますね。年をとったせいか、時折そういうのが聴きたくなるんです(笑)。青かった頃の自分を思い出す、タイムマシンみたいな感じですね。ちょっと凹んだ時など、まだ何者でもなかった頃を思い出して、「もう1回頑張ろう!」と自分を奮い立たせるのに効果的です。

──今回のカバーアルバムの制作を通して、音楽と深く向き合う経験をされたと思いますが、諏訪部さん自身の今後の表現活動において、「こんなことをやっていきたいな」というようなヒントが得られた部分はありますか?

諏訪部:この企画が発表されて、「すごく楽しみにしています!」という声をたくさんいただきました。「自分にもまだこういうニーズがあったんだな」と、ちょっと驚きました(笑)。キャラクターソングや企画ものなどで、歌唱や楽曲制作は数多く行ってきましたが、自分はこれまで、個人として音楽活動は行なってきませんでした。それはなぜかというと、自分がやりたいことは、声優として演技を、ナレーターとしてナレーションを、ラジオパーソナリティとしてトークを、といったことでして。それらで自分が表現したいと思っていることは十分表現できていると思っているからです。自分はミュージシャンではないので、音楽でなければ表現できない、ということはないので。けれど求めがあり、それを楽しんでくださる方がいらっしゃるというのであれば一考の余地ありというか(笑)。思った以上に取り組んでみて楽しかったですし、充実感もありました。今回のカバー企画、参加させていただいて本当によかったです。きっと第二弾、第三弾と続いていくんじゃないでしょうか? やりたい声優、いっぱいいると思うので(笑)。

──そうなんですね。

諏訪部:ええ。立候補する人もいるんじゃないですか(笑)。ホント、うまいこと考えましたね(笑)。自分が好きな楽曲を選んでカバーできるなんて、音楽好きからしたら夢のような話じゃないですか。

──諏訪部さんの『COVER~LOVE~』に出会う、CDを手に取ることを楽しみにしてくれる方がたくさんいると思います。聴いてくれる方に、このアルバムを通してどんな発見をしてほしいと思いますか?

諏訪部:それぞれの楽曲をご存知の方は、オリジナルとの違いをお楽しみいただけますと幸いです。コーラスや投げ込みのボイスなども頑張ってやっていたりするので。ご存知ない方は、これをきっかけにオリジナルの方もぜひお聴きいただけますと幸いです。このカバーミニアルバムが、音楽ライフを豊かにするきっかけとなったらうれしいですね。よろしくお願いします。

取材・文=清水大輔

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