今回のアルバムでは、コーラスを効果的に使った曲が多いのも印象的に残るが、全て内澤が歌っているという。
内澤「『Iro』ではコーラスを過去最高に入れてめちゃくちゃ大変でした。今思うと誰かに入ってもらったら良かったと思うんですけど、全部自分で歌ったのでいろんな内澤がいます (笑)。全体的に音数が少なくなった分、コーラスのアレンジがしやすくなったところはあります。それに、最近コード楽器がなくてコーラスだけで成立しているような曲が増えていて。ビリー・アイリッシュの曲にも、ベース音だけであと全部コードはコーラスみたいな曲があって、そういう良さも取り入れたかったんです。そのアプローチだと感情的に持っていけるアレンジもやりやすい。家で歌も録れる環境にしたので、延々と突き詰められたのも大きいです」
バンドサウンドから大きく逸脱する方向に振り切ったことについて話を聞いてみると――。
伊藤「元々時代の変化とともにバンドも変化し続けるものだと思っているし、そういうバンドでいたいと4人とも思っているので、良い変化ができてきているんじゃないかなって思います」
内澤「メンバーみんなすごく自由になってきてると思います。デビュー作の『anew』の頃はバンドサウンドという枠があったんですが、その後同期を取り入れてデジタルになってきて、『Yeah!Yeah!Yeah!』とか音数がめちゃくちゃ多くなった時期があって。そのあと同期に合わせるのが嫌になってなるべく自分たちで鳴らせるような音にして。それを経てデジタルもアナログも両方できるようになりました」
前田「人って失敗しないと分からないこともありますよね。挑戦していっぱい失敗した結果、今の良い状態がある。でもこれからまた変わっていくと思いますし」
伊藤「メンバー同士『最近この曲がかっこいい』みたいな会話をすると、その曲の良さを取り入れた曲が内澤くんからあがってくるんです。そうなると自然と自分の好きな演奏ができる。だからモチベーションが続くし、そういう場を作ってくれる内澤くんはすごいなって思ってます」
内澤「メンバーがそうやっていろいろ新しい情報を持ってきてくれるので、『あ、そうなんだ』と思ってチェックして。前田くんが取材の空き時間にいきなりシンセベースを買ってきたりね」
前田「空き時間に急にデカい箱持ってきてね(笑)。今はシンセベースを使っている人は増えたけど、当時は結構先駆けだったんです。バンドフォーマットに捉われる必要もないし、置いていかれるのも嫌だったので。彬彦が今言ったみたいに、新しい楽器を持っていけば内澤くんが取り入れてくれるのは知ってたので、もう買っちゃおうと(笑)」
内澤「シンセベースを最初に取り入れた曲が今回のアルバムに入ってる『For you』ですね」
伊藤「内澤くんがそうやって何でも作れるのがやっぱりすごいよね」
また、今作には音のイメージを膨らませて自由に戯れているような歌詞も多く感じる。
内澤「例えば『Gain』だったら、佐藤くんのギターの音がマシンガンをかき鳴らしてるような音に聴こえて、歌詞も膨らませていきました」
佐藤「「Water』の2Aの息を歌詞に取り入れてる表現は内澤くんはこれまでやっていなかったようなものだし。『Lonely』や『Know How』の歌の表現も今回のアルバムで手に入れた手法な気がしました。歌が楽器になっている感じがして、より歌そのものがビートやリズムに寄ってる感じもするし」
内澤「歌詞と歌もやろうと思えば永遠にできる環境だったので、『今日はこの歌詞をウィスパーで歌ってみよう』ってやってみて、ダメだったらまた録り直すっていうことがずっとできたので、いろいろとパターンも試せたし楽しめました」
さまざまな試行錯誤を重ね、音楽の可能性をとことん追求したような本作だが、この一枚を完成させた今、思うこととは?
前田「例えば『Water』とか、『こういうことがやれたらいいな』っていうことが少しずつ具現化されたアルバムだと思います。だから今後はまた各々がいろんな音楽を聴いたりして、それを内澤くんに流し込む作業が行われるんじゃないかと(笑)」
伊藤「ガソリンが溜まって動くみたいな(笑)」
内澤「(笑)」
前田「もちろん内澤くんも音楽をすごくたくさん聴くので、そこからも新しいものが生まれてくると思いますし」
伊藤「ライブでやってきた曲や前からある曲も多かったので、マスタリングで聴き直したときに4人でやってきたことの歴史を感じました。フォトアルバムを見返しているような気持ちになったというか。聴いてもらえる人にとっては、幅広い曲が入っているのでどれかしら好きになってくれるんじゃないかと思ってます。そういうアルバムをフィルターがない状態で届けられる環境で作れたのも大きい成果だと思います」
取材・文=小松香里
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