「基板アート」をご存じだろうか。電子機器の内蔵部品である基板の回路を生かしたデザインで、スマホケースやパスケース、名刺入れなどの雑貨が販売されている。「機動戦士ガンダム」「新世紀エヴァンゲリオン」「スター・ウォーズ」といった有名タイトルとのコラボを多数行い、テレビでも取り上げられている注目のアイテムだ。今回、WEBザテレビジョンではこの基板アートに注目。開発者の北山寛樹氏にインタビューを行った。
基板アートを製造しているのは株式会社電子技販。その社名でわかる通り、バスや電車、病院関連で使われる産業用プリント基板を設計製造する会社だ。社長の北山氏は家業の工場で幼少期から基板に触れて育ち、その美しさ・カッコよさから「基板とは完全に計算された芸術である」と感じていたという。家業を継いだ後、2014年から基板アート事業を開始。「基板は、普段は機械装置の中にあり外からは見えない存在です。いわば縁の下の力持ちであるプリント基板を表に出したい、持ち歩きたいという私の欲求を実現しました」(北山氏、以下同)
マニアックな商品であることから当初は全方向ウケを期待せず、40~50代男性をメインターゲットとしてスタートした基板アート事業。初年度は鉄道ファン向けに、路線図を電子回路で描いた「東京回路線図」名刺入れがヒット。そして2年目に「電池無しでLEDが光る回路」を搭載したiPhoneケースが完成すると、テレビ取材なども経てユーザーが増えていった。「ギフト需要で女性の購入者が2割ほどいらっしゃるのは驚きでした。誕生日や結婚記念日のプレゼントとしてご活用いただいています。もちろん女性ご自身がご利用のケースもあります」
基板アートは、単にデザイン性が高いというだけでなく、プリントされた電子回路がきちんと機能を持っている点も魅力的だ。それにより、iPhoneケースやパスケースについては、電池無しで埋め込まれたLEDが光るというギミックが搭載されている。「iPhoneが強い電波を発した際に、基板裏面にあるアンテナ回路で電波をキャッチします。表面に電圧と電流を高める回路があり、一定の電圧電流に達するとLEDが光る仕組みです」
現在ではガンダム、エヴァ、スター・ウォーズなど、様々な人気タイトルとのコラボ商品を販売している基板アート。最初のコラボ提案先はディズニー。路線図と同じ発想で、ディズニーランド詳細マップのデザインを提案したところ、ディズニーランドは他会社運営のため実現しなかったが、スター・ウォーズ展のグッズ制作を逆提案された。最初に制作した「Xウイング」デザインが既存の配線パターンとマッチ。その後、基板アートとメカの親和性からガンダム、エヴァといった作品ともコラボしていった。「特に私はファーストガンダム世代で、映画館で『ガンダムⅢ』を観たガンダムファンなので、かなりの思い入れがあります」と北山氏は語る。
回路としての機能を保ちながら、デザインとして見栄えがする形に落とし込んでいくのは難関だ。そもそも、基板をデザインするのはいわゆるデザインソフトではなく、基板専用の設計システム。通常はオートで最適な回路を設計するが、デザインとして成立させるにはオート機能が使えないため、鉛筆で描いたデザインを元にマウスで線を引いていく。「デザインの緻密さはこだわっていますね。今までで一番緻密なデザインは、スター・ウォーズの『デス・スター』です。特に内部デザインには非常に時間をかけ、元デザインに忠実に設計しています。基板の配線は直線で描くのですが、『デス・スター』は円弧が多いため、細かい直線の集合体で円弧を表現しており、全体では20万本の直線で描かれています」
また電子技販は元々産業用基板のメーカーなので、小売は初めての試み。「プロデューサーなどもおらず、ド素人が初めてBtoC事業を立ち上げたので非常に苦労しました。価格設定からブランディングまで、全て基板アートのデビューの地である、代官山蔦屋書店の文具バイヤーから教えていただきました」しかし情熱を持って毎月試作を繰り返し、わずか5ヶ月で事業を軌道に乗せたという。
北山氏の手掛ける基板アートは雑貨制作だけにとどまらない。「2021年に、大塚製薬の『カロリーメイト リキッド』WEB広告で、初めて外部デザインの仕事をいただきました。テクノロジーの進化を支える工学系エンジニアに焦点をあて、日々巡らせている思考回路を『電子回路』に見立てたグラフィックと特設サイトで、WEB全体のデザインやポスター、電子工作キットを担当しています」
実際に基板製造業を営んでいる人間だからこそ、今までに無くリアリティのある基板デザインが可能だと北山氏は語る。「世の中に基板デザインを増やし、世界中に基板ファンが広がれば嬉しいですね」私たちの身近に存在するが、今まで着目されてこなかった基板のカッコよさに、改めて気づく人が増えていきそうだ。
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