――書籍化にあたって印象的だったエピソードをお聞かせください。
刊行にあたりオークラさんの半生のストーリーにしていくなかで、5年続いた連載内容を時系列に整理していたのですが、バナナマンさんとの交流やザキヤマさんの変貌事件など同時多発的に起こっていることが複数あり、どうしても説明的になってしまう箇所が出てきました。一度オークラさんと相談したところ、それらがつながり合う未出のお話がどんどん出てきまして、バラバラだったものがひとつの物語になっていくのがイメージできた時、オークラさんの頭の中にストーリーが出来上がってるのだと確信でき、その時はうれしかったですね。
結果2020年に出す予定だったのが、2021年12月まで1年近く延びてしまいましたが、それらを思い出していくのに必要な時間だったと今では思っています。普段の作業で印象的だったのは、どの時間帯に連絡をしてもだいたい返事が来ますので一体いつ寝ているのだろうかと思うことがあります。
――書籍内ではいろんな芸人さんとの交流など、オークラさんのエピソードも多数紹介されています。特に印象的だったお話をお教えください。
ラーメンズ、小林賢太郎さんのお話は印象的でした。ラーメンズについての原稿は事前に受け取っていたのですが、「コバケンには思うところがあるから書き直していいですか」と連絡がありました。その後いただいた原稿には、当時ラーメンズがなぜ他の芸人さんたちより抜きん出ることができたのか、あるひとつのコントをフックにその才能についてより丁寧に触れる原稿になっておりまして、それだけでも十分思いが伝わってきました。さらに、本文の最後にオークラさんから激励ともとれるメッセージが入っており、同じ世代でお笑いに熱中してきた仲だからこそ伝わる言葉の重みに感動したのを覚えています。静かに熱いものを出してくるオークラさんの流儀に触れられた気がします。
――担当編集者の目から見た、オークラさんのすごさをお聞かせください。
たくさんあるのですが、本に関してですと「作品を面白くしたい」という志の高さでしょうか。原稿執筆時に、「20年以上も前の細かい会話をよく覚えているなあ」とその記憶力にいつも驚くのですが、それをグワーッと書いても面白くなくて、やっぱり書き方・見せ方を工夫しないと面白くならないじゃないですか。それって結構な作業だと思うのですが、常に忙しい方なのに「良きものを作るために」の精神を崩さずに自分の中で面白いと思える合格ラインを目指して書き続けられること、「さらにまだ面白くできるのでは」と上を目指そうと作業をストップしないのがすごいです。
この本も本当にギリギリまで書く作業を続けていました。「書くたびにどんどん思い出しちゃって(書くのが)やめられない」と言って、最終的には当初予定していた文字数の倍になっていまして、さすがにストップしないと本が出せないとなった時は恐怖を感じました(笑)。原稿をいただくたびに面白くなっていくので、「もっと見たい、でも終わらせないと」という心のせめぎ合いが大変でしたが、デザイナーさんや印刷所ともお話をして「ギリギリまでやりましょう」と万全の体制で構えておりました。
――本書の読みどころをお教えください。
メインはオークラさんの自伝的なストーリーなのですが、テーマの核としてあるのは自意識の変化です。「俺が一番面白い!」と息巻いていた人が多くの才能に出会い打ちひしがれるなか、どのように自意識を保っていったのか。自己実現の方法、人脈の作り方、チャンスを形にすることなど、お笑いに限らない仕事の処世術が詰まった1冊ですのでそこにも注目して読んでいただけるとより楽しいと思います。
また、「漫才」ではなく「コント」をベースにそれぞれの生き様も描かれております。「コント」で生計を立てるのがいかに大変か、そしてその価値を上げようと尽力しているオークラさんの奮闘ぶりにも注目いただけますとありがたいです。