「あさイチ」“朝ドラ受け”は平和の象徴?コロナ禍でも人と人がつながるためのツールに

“朝ドラ受け”は、コロナ禍でも人と人がつながるためのツールに

「カムカムエヴリバディ」より(C)NHK


だが“朝ドラ受け”も初めから順風満帆だったわけではない。2015年頃には番組内で“朝ドラ受け”が必要かどうか、議論が行われていたこともあった。「例えば災害、大雨などがあった場合、あまり浮かれた気分で番組に入るのはよくない場合もある。何より、朝ドラを見ずに『あさイチ』から見る視聴者もいるわけで、自分の知らない話をされても…との声もいただいていました」

様々な声がありながらも結果的に“朝ドラ受け”は続いた。そのヒントは2014年8月発売の雑誌「女性セブン」に掲載されていた井ノ原のコメントにありそうだ。「ひとり暮らしのおばあちゃんが朝ドラを見て、感想を言い合えないと寂しいじゃないですか。せめて、テレビに話しかけてくれたらと思ったのが(始めた)きっかけ」(井ノ原)

この精神は今も番組に受け継がれている。さらに約2年半ほど前から、視聴者にいっそう向き合わなければならないと出演者・スタッフも気持ちを新たにした。きっかけのひとつがコロナ禍だ。「皆さん自粛され、在宅が増えたり、人と会えなくなったりしたと思います。『あさイチ』もリモートが増えるなど大きく環境が変わりました。それでも、何かにすがっていれば、なんとかつながっていけます。“朝ドラ受け”を通じて、それでSNSをやっていないご高齢の方々とつながれるし、SNSは今やお茶の間となっていて、SNS世代もハッシュタグ『#朝ドラ受け』でつながれる。そういった意味で、“朝ドラ受け”は、ある種のコミュニケーションツールかもしれないと考えます」(石本氏)

“朝ドラ受け”があることが、平和な1日が始まる象徴

「カムカムエヴリバディ」より(C)NHK


視聴者と向き合う形を強める中で、“朝ドラ受け”の人気は高まり、今度は逆に“朝ドラ受け”がないと話題になるような状況も生じている。「例えば2020年の『エール』放送時、主人公・裕一(窪田正孝)が初めて戦場へ行き、そこで旧知の人物が亡くなるという、戦争の悲惨さを示した回があったのですが、その時は『あさイチ』の企画内容を優先し、受けなかったんです。視聴者からは『それでもやって欲しかった』の声が届きました」

「おかえりモネ」の最終回も、最終週まるごと“朝ドラ受け”がない状況に。この時も大きな話題となり、ユーザーからは惜しむ声があふれた。

ところで余談だが、この“朝ドラ受け”、番組の台本には「45秒」「1分ぐらい」など尺しか書かれていない。つまり出演者の反応はすべてアドリブである。さらに言えば、朝ドラの展開によっては話しづらい内容もあるため、“朝ドラ受け”を本当にやるかどうかは、本番直前に決まる。だが基本は「やる方向」とのこと。

「有働さん、井ノ原さんが育み、継続し続け、華大さんに受け継がれて、ドラマうんちくなど新たな形を加えながら続いてきた“朝ドラ受け”。例えば最近でも、北朝鮮のミサイル発射関連のニュースがありましたが、そのような事件がない日は“朝ドラ受け”があるんです。それは何気ないかもしれないけど、だからこそ幸せ、世の中が平和で、1日が始まるという象徴。そんな声をSNSで見かけ、私たちもうれしく思っています。今後も皆さんと一緒に朝ドラを楽しみたいですし、『あさイチ』も視聴者の皆さんに、よりいっそう向き合って制作していこうと考えています。鈴木アナが泣くかどうか(笑)、また華大さんの解説やボケも、今後も楽しみにしていてください」

取材・文/衣輪晋一(メディア研究家)