「テレ東らしさ」はもはや死語?「若手映像グランプリ」企画者・優勝者の3年目ディレクターに聞く、彼らが目指す新しいテレビ

「Raiken Nippon Hair」より (C)テレビ東京

3月17日に決勝戦が行われた「テレビ東京若手映像グランプリ2022」。30歳以下のテレビ東京社員が「予算ひとり100万円」「15分以内」「ジャンル自由」のルールで映像を作り、地上波放送枠をかけて競うという企画の発案者は、入社3年目の若手ディレクター。さらに、「架空の国のクイズ番組」という内容がインターネットで大きな話題を集めた優勝作品「Raiken Nippon Hair」制作者も、同じく入社3年目の若手だ。どんな経緯でこの企画が実現したのか、そしてぶっ飛んだ優勝作品はなぜ生まれたのか。「テレビ東京若手映像グランプリ2022」企画・演出の千田洸陽さんと、優勝者の大森時生さんに話を聞いた。

最大級の映像メディアであるテレビ局の若手が、いちばん自由に発信できない矛盾


同期で制作局に入社し、3年目からディレクターとなったふたり。しかし番組の企画募集で若手の案はなかなか通りにくく、30代以上の案が大半という状況があったという。千田さんは「若手映像グランプリ」の立ち上げ経緯についてこう語る。
「20代の企画が通過する率は低くて、若手は諦めモード。一方でYouTubeやTikTokなどで活躍しているクリエイターは、若いうちからどんどん自分で作ったコンテンツを配信して有名になり、同世代の支持も得ている。このまま30代になってから自分の企画が通ったとしても、その頃には時代に乗り遅れているんじゃないかという懸念がありました」

危機感を覚えた千田さんは、昨夏の全社的な企画募集タイミングで「若手映像グランプリ」を提案。社長や役員への直プレゼンを経て実現に至った。予算もかなり大きい本企画、どのようにアピールしたのか?
「面白いアイデアを考えている若手はたくさんいるのに、それを表現できる場が担当しているレギュラー番組のワンコーナーしかない。昔とは違って、今はだれでも自由に発信できる時代。映像メディアとしてテレビは今でも最大級なのに、その中にいる若手が一番自由に発信できないという矛盾はもったいない、と話しました。制作3年目の若手が言ったからこそ、伝わりやすかったのかもしれません」(千田さん)

優勝作を手掛けた大森さん(左)とグランプリ企画者の千田さん(右)


多彩な26作品が集まり、優勝作は満場一致で決定


こうして走り出した「テレビ東京若手映像グランプリ2022」。集まった26作品のジャンルはバラエティ、ドラマ、ドキュメンタリーなど様々。まずは再生回数や、テレ東社員・テレ東ファンの投票による予選を経て、5作品が決勝進出。そして田村淳(ロンドンブーツ1号2号)、劇団ひとり大根仁佐久間宣行ファーストサマーウイカという豪華審査員を迎え決勝審査が行われた。
「『M-1グランプリ』なんかもそうだと思いますが、審査員の方々は『この人に褒められたら嬉しい』という基準でお願いしました。なおかつ、テレ東でMCをされている方や、バラエティだけでなくドラマについても知見がある方など。理想通りの豪華な方々に出演いただけて嬉しかったです」(千田さん)

「テレビ東京若手映像グランプリ2022」審査員の面々 (C)テレビ東京


結果は、大森さんの作品「Raiken Nippon Hair」が満場一致で優勝。審査員も「めちゃくちゃ面白かった」(劇団ひとり)「才能あると思います」(大根仁)など大絶賛のコメントを寄せた。しかし、候補作は他にも個性的な作品が集まっている。3月31日までYouTubeで全候補作が無料配信中のため、面白かった作品をふたりに紹介してもらった。
千田さんのおすすめは2作品。「『いつも通り。』は、納品〆切の3日前に撮影を始めたんです。どうするんだろうと思っていたら、時間がないことを逆手にとってワンカットドラマ。現場も見に行きましたが、チーム一丸となって何度も撮り直していて、制作現場の熱が感じられました。もう1作は『ハン=フィクション』。岡野陽一さんの密着VTRにラバーガールさんがコメントするというフェイクドキュメンタリーです。すごく面白いのに再生回数が伸びないなと思っていたら、決勝戦が終わった後に話題になって急に伸び始めて、やっぱり面白いものは見つかるんだなと」
大森さんは「記念日にとらわれて」をプッシュ。「短編映画としてクオリティが高く、面白いと思いました。ドラマはセンスが問われるし、オモシロに逃げられないから大変で、僕はできない。予算的にもドラマを作るとなると100万では厳しいので、再生数は稼ぎづらいだろうと思いましたが、演出もグッときましたし、素敵な作品です」