――作中で特に印象的なシーンやセリフはありますか?
斎藤:僕は宇野(祥平)さんのキャラクターが、この作品のシンボリックな人物だと思います。少しネタバレにはなってしまうんですけど、ただただ男性の妊娠を面白おかしくポップに描いたのではなくて、宇野さんと山田真歩さん演じるご夫妻が“痛み”を伴うリアリティーを体現してくださいました。現場でもそうでしたし、完成した作品を見ても、心がぐちゃぐちゃにされたというか…。お2人が表現してくださったことが、この作品の神髄の部分なんだなと感じましたね。
それから、終盤に桧山がパートナーである亜季(上野樹里)の決断に対して「それじゃダメだ」というところ。「誰かが苦渋を飲んで我慢するのではなくて、自分も君も生まれた新しい命も、全員が自分らしく生きる未来を見つけたい」と言うんですね。それには多少の無理も生じるけれど、桧山は手を差し伸べてくれる“何か”に期待している。それは桧山が出会ってきた人々が、桧山に手を差し伸べてくれたからです。この作品に限らず、希望となるのはやはり人なのかなというふうにも感じますし、“白か黒か”で誰かが我慢するのではなくて、“グレーを選ぶ”ことが必要な未来があるんじゃないかなと、今あるいろいろな出来事が物語っている気がしました。
――撮影を通じて、Netflix作品ならではの魅力は感じましたか?
斎藤:日本で作られているNetflix作品は、必ずしも本国のスタイルの純度ではないと僕は思っていて、足して二で割ったぐらいなのかな、と。日本で撮影するものに関しては、大幅に何かが変わっているというわけではありません。ただあるとしたら、監督や共演者、スタッフの方々が、僕のお腹が大きくなることに対して“命がここにいる”と、“モノ”ではない扱いをしてくれたんですね。撮影期間は本番中以外でも、必要以上に僕を気遣ってくれるホスピタリティーを感じました。それはフェイクでもありますが、現場に関わる方たちがどれだけ無意識にリアリティーを持てるかって、僕はすごく大事なことだと思います。この業界はどうしても、根本的・道徳的なモラルみたいなものが欠落していってしまう。その膿と区切りをつけるためにも、“相手を思う”というシンプルな気持ちというか…こういった今までとは違う感性、現場の在り方は確実に必要だったと思います。
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