19時ちょうど。定刻通りに客席の照明が落とされると、驚くほど自然体な渋谷がステージ下手からふらりと1人で登場した。この日はファンクラブライブだったこともあり、ライブの開始前にトークコーナーが設けられていたのである。あまりにラフな登場に意表をつかれたファンたちは、驚きのあまり一拍遅れてしまった拍手で渋谷を迎えた。久しぶりに会う渋谷が目の前にいるのに声を出すことが許されない状況とあり、トーク中に客席に問いかける渋谷の言葉にも拍手で答える姿は、とてももどかしいそうだった。
渋谷もまた、自らの名前を呼ぶ声も歓声も無い講演会のような慣れない空気の中でのトークに時折戸惑いを見せ、照れ臭そうな表情を浮かべながらも、久しぶりの再会の喜びを噛み締めていた。
ファンクラブイベントならではの近い距離のトークコーナーを終えると、ステージに張られていた紗幕が落とされ、バンドセッティングが姿を現した。
スタジオでジャムった音源をそのまま録音したような、のほほんとしたSEをバックに、塚本史朗(Gt)、安達貴史(Ba)、茂木左(Dr)、本間ドミノ(Key)と、渋谷すばる(Vo)が登場した。
このメンツでのライブは今回が初。幕張メッセ(国際展示場6~8)で観た『渋谷すばる LIVE TOUR 2020「二歳」』とは違うバンド編成である。広いステージを敢えて有効活用せず、中央にギュッと集めてセッティングされたバンドセットは、小箱のライブハウスを切り取ったかのような光景だった。
2020年の11月にリリースした自身2作目となるフルアルバム『NEED』を披露するはずだった2021年4月からの2度目となる全国ライブツアー『渋谷すばる LIVE TOUR 2021』も新型コロナウイルスの影響により全公演中止となっているため、まだ『NEED』での有観客ではライブを行なっておらず、さらには2021年9月22日には自身3作目となるフルアルバム『2021』もリリースしており、まだまだライブで披露していない曲のストックはたくさんある中で、渋谷は久しぶりのライブの1曲目に新曲を選んでいたのである。きっと“いち早く新曲を聴かせたい!”という、紛れのない『Shubabu』愛であったに違いない。
定位置に着いた塚本、安達、茂木、本間は、SEを遮るように力強く放たれた渋谷のブルースハープの音を合図に、“OK! 準備は出来てるぜ!”と言わんばかりにそれぞれの楽器を掻き鳴らして応えると、茂木のシンバルの4カウントと掛け声からイントロのユニゾンの4カウントへと繋げ、曲をスタートさせた。ピタリと息の合った力強いカウントに、ゾクゾクさせられた。
“俺はここにいるぜ!”の歌詞を載せたサウンドが最高にロールしまくるロックは、オーディエンスの体を自然と揺さぶらせ、会場の温度を一気に上げた。渋谷が単独で音楽を始めてから、最強のパートナーとして渋谷のサウンドを支えてきた塚本のガレージ色が色濃いロックン・ロールギターを軸とし、絶妙な脱力感で、低音に重心を置いたバックビートの抜けを実に個性的なスタイルで放つ茂木のドラムに、最高のグルーヴとうねりを上げる安達のベースプレイが絡みつき、そこに本間のブルーススケールを使いこなしたロックン・ロールピアノがバンドサウンドを華やかに導き、唯一無二の輝きを与えていた。
塚本、安達、茂木、本間が織りなす息の合ったバンドアンサンブルのリズムの重心は最強のノリを作り上げ、渋谷のブルースハープは、そんな極上のロックン・ロールの中で叫びを上げた。4人が発するサウンドとリズムの極上の波に、天性の感覚で飛び込んで唄を絡ませていく渋谷の感性も言わずもがな最高だ。間奏で暴れまくる個の音のぶつかり合いの強さといったら、最高なんて言葉じゃ収まらない。最高以上の表現があったらその言葉を記したいほど、それは圧巻と高揚の連続だった。
茂木は絶やすことなくリズムを刻み続け、間髪入れずに「ワレワレハニンゲンダ」へと繋がれていった。人間として生きる自由をシニカルに唄う渋谷に、メンバー全員による“ニンゲン! ニンゲン!”という、渋谷の叫びへの同意的なコーラスが載る。叫びの中に込められた人間として生きる意味の深さと人間が人間を思いやること、尊重すべきことの大切さを考えさせられる1曲だ。掻きむしられる感情を表現したかの様な塚本のギターと鬱血した感情を表現したかのような渋谷のブルースハープの重なり合う音像には、歌詞に落とし込まれた憤りを爆発させた凄みがあった。
体を揺らさずには聴けないリズミックな「BUTT」への流れも、ノリを止めずに繋がれた。5人は、途中にMCを設けることなく、曲間に繋ぎ目を持たせないスタイルで、音を途切らすことなく届けていくという、実にストイックな流れを作っていったのである。
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