お笑い芸人の紺野ぶるまが、初の長編小説「特等席とトマトと満月と」(幻冬舎)を刊行した。本作は、美人で背も高くスタイルも悪くない駆け出しの芸人・ムシナが、お笑いと恋愛の狭間で揺れながら生きる姿を中心に、女性芸人たちのリアルを描き出している。作中でムシナは、女性芸人として結婚することへの葛藤を口にしているが、2019年4月に同い年の一般男性と結婚した紺野自身も「めちゃくちゃ迷いました」と悩んでいたことを明かした。また、2022年4月に第一子出産を報告した紺野は、一児の母となっても下ネタである十八番の謎かけは「全然やめないです」と宣言。さらに我が子に対しては「芸人になってほしいという気持ちもある」と願望を口にした。
――まずは小説を書くに至った経緯から教えてください。
幻冬舎さんに女芸人3人で「ネタ見せ」にお邪魔する機会があって。その時にいた偉い編集の方が、面白がってくださって、「小説を書いてみませんか?」とお誘いいただいたんです。
――執筆にはどれくらいの期間掛かりましたか。
2年半です。最初のうちは楽しかったのですが、途中から「もっと面白くしたい」と言う欲が出て書けなくなりました(笑)。「このまま書き終わらないんじゃないか」という不安が2年半ずーっとありましたが、本当はこのオチしかないって最初からわかっていたように思います。
――ご自身の体験談は、何%ぐらい入っているのでしょうか。
25%は自分の体験談で、あとの75%は人づてに聞いた話や近くで見ていたエピソード、自分の中で考えたフィクションを織り交ぜて書きました。
――小説の中では、主人公・ムシナの結婚への葛藤が描かれています。紺野さんご自身は女性芸人として、結婚についてどんな捉え方をしていたのでしょうか。
結婚についてはめちゃくちゃ迷いました。女性芸人って、テレビで恋愛のエピソードを語る時に、「モテない」とか「結婚したいのにできない」とか、“負け犬”のポーズを取るほうが笑いを取りやすいんですよね。それに周りの芸人仲間からも「女芸人は恋愛したら面白くなくなる」とよく言われていましたから。
実際に、旦那さんと出会って安定した恋愛をするようになって、自分でもネタを書きづらくなったというのは体感としてあったんですよ。ましてや結婚したら、余計つまんなくなっちゃうんじゃないかなと不安に駆られたりもして。そんなわけで、結婚もお笑いもどっちも手に入れるのは難しいかなと思っていたんですけど、途中から「変だな」と思うようになったんですね。
――“変”というと?
男性芸人は、お子さんが誕生したら「頑張れ」「もっと売れなきゃいけないね」って応援してもらえるじゃないですか。だけど、女性芸人が結婚・出産すると、ハッキリ“母”として見られる。それが嫌だなって思っていたんですよね。だから今は、自分が子育てをしっかりとしつつ、お笑いでも今まで以上の成果を出す最初の人になればいいんじゃないかなと転換して考えるようになりました。
――それでは、いわゆる“ママタレ”的なメディアへの露出の仕方は考えていないのでしょうか。
マザーズバッグをプロデュースしたり、子育てブログを書いたり、通販番組出たりとか…。もちろん、そういう仕事に憧れもあるのですが、そっちの方面に寄り過ぎちゃうと大喜利をすることやネタを書いて賞レースへ出ることと相容れない気がしています。
――じゃあ、今後もネタや大喜利をバリバリやっていくと。
子どもが産まれる前はそう強く思っていました。でも今は、子育てブログを書きたくなっていたりもして(笑)。当初は、子どもについてあまりしゃべりたくないし、顔も名前も絶対に公開しないし、出産日も明かさないっていうアーティスティックな感じでやりたかったんですけど、いざ産まれると子どもの顔をSNSに載せたいと思っちゃいましたね(笑)。