おじさんのひとり喋りが気持ちいい「所さんの世田谷ベース」/テレビお久しぶり#3

2022/06/17 21:01 配信

バラエティー コラム 連載

「テレビお久しぶり」(C)犬のかがやき

長年「若者のテレビ離れ」が言われ続ける一方で、最近ではTVerなど見逃し視聴が一般的になり、テレビ番組の話題がSNSでバズることもしばしば。テレビって、あらためてじっくり見たら色々おもしろい?なんと7年ぶりにテレビ番組を見るというライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載、3回目です。今回はBSフジで放送中の「所さんの世田谷ベース」をチョイス。

おじさんのひとり喋りが気持ちいい「所さんの世田谷ベース」


所ジョージがレモンスクイーザーの仕組みを興奮気味に語り続けるオープニングを見て「これは間違いなく面白い」と確信、意気揚々と再生したらやっぱりめちゃくちゃ面白かったこの世田谷ベース、存在自体は知っていたものの、こんな風に映像で見るのは初めてのことであった。今回は、「テレビお久しぶり」というより、「世田谷ベース初めまして」と言わせていただきたい。

変なことだったり、超部分的なことに対して感動している人間の姿というのは、それだけで面白い。とてつもなく私的な話で申し訳ないが、私には夜、YouTubeを開き、おじさんがひとりで何かについて喋ったり解説している動画を探し、耳元で再生しながら寝るというルーティーンが存在する。おじさんがひとりで喋っている音声が、たまらなく耳に気持ちいいのだ。ASMRなど……おじさんがひとりで喋っている音声に比べたら、屁でもない。いや、屁だ。私にとって、おじさんがひとりで喋っている音声というのは、ASMRが屁に聞こえてしまうほど、価値のあるコンテンツなのだ。

そんな私のワガママな鼓膜を、この世田谷ベースという番組は鷲掴みにした。とはいえ、これから私の嗜好を最大限に掘り下げた文章を書いたところでシュッと読み飛ばされてしまうに違いないので、あくまでも映っているモノや、言葉の表現について話をしたい。

所さんの場合は、年代物のレモンスクイーザーの仕組みに感動したと言い、ひたすら喋り続け、時折その仕組みの秀逸さを「おりこう」と表現する。これが素晴らしい。私は所さんのことをよく知らないので、この「おりこう」というのは彼の口癖として定着しているものなのかもしれないが、ここは存分に影響を受けさせていただいて、私も明日から、例えば換気扇なんかを見て「おりこう」と言ってやろうと思う。彼の「おりこう」は制作者に向けられているものであろうが、私の「おりこう」は換気扇そのものに向けられる。あんなに偉いものは無いからだ。

BGMも無ければテロップもほとんど無く、所ジョージの喋りと、レモンスクイーザーを磨くためのミニグラインダーのモーター音だけが響き渡る冒頭部分。私も世田谷ベースなんかにはまっとうに憧れてしまうクチだから、「いいなあ」と思いながら眺めていると、所さんが「休憩してうどん食べよう」とスタッフに申し出る。そして次の瞬間には、うどんを食べ終わった所さんが画面に映っているのだ。このスピード感というのか、少なくともテレビ番組において、演者が食事をするところを見せない、物撮りも箸上げも、食った料理そのものすら映らないというのは、私は初めて見たかもしれない。彼は本当にただ「休憩」をしただけなのだ。芸人やタレントがどこぞのメシを一口二口食って、なんか言って、次の瞬間にはもう店外、といったようなテレビ的食事ではない。食事のシーンが映らない。画面なんか嘘であると無意識に思っているからなのか、映らないことによって、真実味が増す。『食事が映らなかった、つまり彼は食事をしたのだろう。』なんだ、この命題は。これはすごい感動である。

食事を終えた彼は、なぜだかスコッティの話を始める。通常のスコッティは160枚入りだが、徳用スコッティなるものがあって、それにはティッシュが200枚入っている。しかし、箱の大きさは通常でも徳用でも同じサイズなので、元々160枚入りサイズだったはずの箱に200枚を詰め込んだ徳用は、1枚目のティッシュを取ろうとしたときに破けてしまう……。ティッシュの話である。素晴らしい。人生というのは、たかだかこんな程度の話の積み重ねでできている。あの所ジョージが、テレビのカメラに向かって、ティッシュについて話している。私は、バイクはもちろん、レモンスクイーザーも、ミニグラインダーもさわったことはないが、ティッシュだけはさわったことがある。田舎から出てきて、念願かなって荻窪に住んだとき、「バナナマンのふたりは、荻窪を知っているだろう」という事実に胸が躍ったのを思い出す。私はバナナマンのふたりが知っている街に住んだことにも、所ジョージがティッシュの話をしたことにも興奮を禁じ得ないほどの、重度のミーハーなのだということを、改めて自覚させられた番組であった。

所ジョージが、自身のYouTubeチャンネル「SETAGAYA BASE 工作部」を削除するという告知をし、視聴者を驚かせている。私も、消えるまでに動画を見漁って、いったいどれだけの食事が映っていないのか、確認してみたいと思う。

文/城戸
イラスト/犬のかがやき

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