sumikaの片岡健太、初のエッセイ「凡者の合奏」を発売!「文章化することで“経験の実寸”が分かるようになった」

2022/06/29 08:00 配信

音楽 インタビュー

ロックバンド・sumikaのフロントマンであり、ほぼ全ての作詞を手掛ける片岡健太が、初の著作「凡者の合奏」を上梓した。YouTube再生回数5000万回超えの「Lovers」をはじめ、「フィクション」「Shake&Shake」「ファンファーレ」など、ポップで軽快なナンバーで知られる彼らだが、人の心を弾ませるその明るさは過去の苦悩や葛藤によって強固にされたものだということが感じられるエッセイ。その執筆の裏側や、書き上げた今思うことなどを片岡に聞いた。

初の著作「凡者の合奏」を上梓した片岡健太 写真=大石隼土

数少ない“好き”の一つである“言葉”の仕事ぐらいは、プライドを持ってちゃんとやり遂げたかった


エッセイ出版の企画を聞いたのは昨年11月のこと。sumikaが結成10周年イヤーに突入するタイミングで一度、自分自身やバンドの来歴を振り返ってみるのもいいかもしれないと考え、オファーを受けた。

「毎日、目の前のいろんなことに追われて生きていて、過去のことをゆっくり振り返る機会はなかったので。自分の言葉で整理しながら振り返ることで見つかるものもたくさんあるだろうし、これから先進んでいく上で何か、新しい武器が見つかるかもしれないなと思って。そこにあまり迷いはありませんでした」

 快諾したものの、ライブツアーやその他もろもろの活動を行いながら2週に1編のペースで原稿を上げるのは時間との戦い。「返事をしてすぐ『あ、これはやってしまったかも』と思いました」と人懐こく笑うが、そこからは自分でも意外なほどのストイックさを発揮した。

「原稿に使える時間を1週間分、分刻みで全部書き出して、その時間をもう学校の時間割みたいにして取り組みました。執筆期間中はほとんどお酒も飲みませんでしたね。まぁ、今はご時世的にライブ後の打ち上げもないので、誘惑が少なくて済んだっていうのもあります(笑)」

 締め切りは一度も破らなかった。担当編集の厳しい赤字に素直に耳を傾ける中で、文章にも厳然たるルールというものがあるのだと分かり、我流ではなくルールに則って書くことがむしろ面白くなっていったという。それにしても「学校の勉強に対しては全然まじめじゃなかった」という片岡が、それほど自分を律してまで執筆に集中できたのはなぜだろう。

「多分、好きなことに対してだけは負けず嫌いなんです。そもそも僕は脳内の“好きなもの”フォルダに入るものが限りなく少ない人間なので、その数少ない一つである“言葉”の仕事ぐらいは、プライドを持ってちゃんとやり遂げたかった。だって普段歌詞は書いてますけど、文章を書くことに関してはズブの素人なので。そこに命を懸けて書かれている方々の本と書店に並べてもらうためには、必死で食らいつかないと…。メロディーが付かない詩というものにも初挑戦しましたし、言葉を使った表現の幅は広がったんじゃないかという気がしています」

 結果、4月には最終章まで執筆完了。
 誰に宛てて書いた本かをあえて問うと「一番嘘がない答えを言うなら、過去の自分ですね」と明かしてくれた。

「特に孤独だった中学時代とか、調子に乗ってた高校時代とか。あの頃にこういう本があれば、楽観もせず悲観もせず、等身大というものをちゃんと受け入れられたのかもしれないなって。それは今同じような悩みを持っている方にも、もしかしたら当てはまることなんじゃないかとも思えたんです。そうなってくれたら最高にうれしいんですけど」

関連人物