sumikaの片岡健太、初のエッセイ「凡者の合奏」を発売!「文章化することで“経験の実寸”が分かるようになった」

2022/06/29 08:00 配信

音楽 インタビュー

【写真を見る】原稿に使える時間を1週間分、分刻みで全部書き出して取り組んだという片岡 写真=大石隼土

声が全く出なくなってしまったことは…曲で言うところのサビみたいなものだと思っています


 初めてギターに触れた時の思い出、鬱々とした時代に唯一心を通わせた友人のこと、衝撃を受けた“推し活”のこと、バンドメンバーとの出会いそして別れ――時系列順に綴られる片岡少年の青春は、やがて、音楽で生活していきたいという夢に結晶する。
著者の呼吸が息づくような一節一節は、回顧録でありながら、どの節も決まって“今”や“これから”へと目線を上げた形で締め括られる。

「僕、歌詞もそういう風に書くことが多いんです。春、夏、秋、冬まで書いて終わりじゃなくて、次の春まで書いて終わるっていうのが多分、音楽脳としての自分で、それは曲もそうですしライブもそう。暗い曲で最後終わりたくない、次につながるもので終わりたいと思って音楽をやってきたので、それが自然と文章にも出たんだと思います。
あと、せっかく本を手にしてくれたからには、やっぱり皆さんに最後まで読んでほしいんですよね。読者としての僕の経験上、途中で挫折しちゃった本というのは…思い返せば区切りのところで暗く落ち過ぎていて、自分の足腰使って立ち上がらないと次章にいけない、みたいな感覚があったんです。そういう記憶もあって、どんな人にとっても最後まで読み切るのが苦じゃないものにしたいなと。例えば『ふだん音楽は聴くけど本は読まない』という方がもしこの本をきっかけに読書に触れてくれるとしたら、その最初の一冊ってすごく大事じゃないですか。という気持ちが“次の春”を指し示す流れに表れたのかもしれません」

高らかなボーカルワークの一方、話し声は低く鷹揚。でありながらとてもクリアに考えが精錬されているのだろう、質問に対する返答が速く、聞き手がまごついてしまうほどだ。
しかしこの明朗な声が失われた時もあった。2015年、原因不明の失声症から心身のバランスを崩し、約4カ月間活動を休むに至ったどん底期の一部始終も、本書には克明に綴られている。

「そうですね。僕の半生を振り返るにあたって、声が全く出なくなってしまったことは…曲で言うところのサビみたいなものだと思っています。あれがあって変わった人生なので。
あの時期は『ここまで話しちゃうと自分たちのファンを不安にさせるのはもちろん、ミュージシャン全体が変に心配されちゃうかも』という恐れがあって、言葉に対してめちゃくちゃセンシティブになってたんですよね。でも時間が経ってあの苦悩とか逆に復帰したときの喜びとか…そこをちゃんと丁寧に、モヤをかけない状態で書きたいと思いました。特に文章という手段だからこそ、そこまでできたんだと思います。映像だと生々しくて見てられないものも、文章ならさらけ出せる。もちろん書き方についてはすごく悩みましたけど、そこに一切の嘘はないので、清々しい気持ちでこれからの人生に向かってまた歩いて行けるなと今は思えています」

その最も苦しいくだりの後にも、“次の春”はちゃんと(思いもよらぬ形で)描かれるので、読者は期待して読んでほしい。ともあれ自分流のサビを書き上げたことにより得たものは、インタビュー冒頭、執筆動機の一つとして彼が挙げた「新しい武器の発見」にもつながった。

「文章化することによって“経験の実寸”が分かるようになった気がします。何事に対しても実寸を知ることで、誇張も委縮も必要なくなる。言い換えれば、へりくだることも自慢することもなくしていけるということ。起きた事象を正しく自分の言葉で伝え、その実寸がつかめたことは、今後の活動にも大きく生きてくるんじゃないかと思います。変化を恐れず前に進みたいですね」

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