コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、夜諏河樹さんの描いた『アンテン様の腹の中』を紹介。同作はマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」(集英社)で現在連載中で、単行本は第2巻まで発売されている。今回Twitterで公開されたのは、第3話にあたる『私とワルツを』(Twitte投稿時のタイトルは「おじいちゃんが、妻のために初恋の人のフリをする話」)で、大切なものと引き換えに願いを叶えてくれる不思議な神様“アンテン様”と、ある老夫婦の願いを巡る物語が描かれている。夫が抱える妻への切ない想いと、アンテン様が導いた感動の結末が反響を呼び、約16万(2022年7月11日時点)のいいねが寄せられた。この記事では夜諏河さんにインタビューし、作品へのこだわりなどを伺った。
宏明と路子は長年連れ添った老夫婦。妻・路子は少し痴呆気味で、夫・宏明のことを宏明の兄と間違って認識してしまう。しかし、宏明はそんな妻のことを愛しく思い、孫と共に支え合って暮らしていた。
ある日、宏明が歩いていると、どこからともなく大きな鳥居が現れる。それは自らの大事なものと引き換えに願いを叶えてくれるという“アンテン様”の神社へ通ずる入り口だった。いきなり現れた鳥居とアンテン様に驚く宏明だったが、自らの大事な時計と引き換えにある願い事をする。それは「妻と兄の思い出の曲である“春のワルツ”を弾けるようにしてほしい」というもの。
実は、路子はもともと宏明の兄・直明の妻であった。しかし、直明が戦争で亡くなってしまい、その後に弟である宏明と結婚をしたのだった。幼い時から密かに路子に憧れていた宏明は、兄にどこか罪悪感を感じながらも、路子を幸せにすることを自分の使命として今日まで生きてきたのだ。
彼の願いは妻・路子の一番幸せだった時、兄と風琴(オルガン)を弾いて過ごした記憶を思い出してもらうこと。そのため、路子に宏明自身を認識してもらうことは望まなかった。自分の中に兄の姿を見てもらうことで、最愛の妻の幸せを願ったのだった。
結果、アンテン様への願いが叶い、“春のワルツ”を弾けるようになった宏明。曲を聞いて、すべての記憶を思い出した路子は…。
思いのこもった大切なものと等価の願いを叶えてくれるという不思議な神様“アンテン様”と、妻を想って願いを叶えようとする夫の姿を描いた本作。自分を犠牲にしても愛する人を想う夫と、アンテン様が夫婦に与えた結末に、Twitterでは「号泣しそう」「目から水が止まりません」などの感想が寄せられた。
現在「少年ジャンプ+」で連載中の『アンテン様の腹の中』では、アンテン様とさまざまな願いを持つ人間たちの多様な物語が描かれている。気になる人は連載や単行本をチェックしてみてはいかがだろうか。
ーー『アンテン様の腹の中』はどのような発想から創作されましたか?同作が生まれたきっかけや着想を得たものなどがあればお教えください。
この連載は同名タイトル『アンテン様の腹の中』という読み切りが原型でして、それを描くきっかけになったのは担当編集の林士平さんの言葉でした。読み切り版アンテン様を描くまでは、ヒューマンドラマ読み切りを何度か提出していたのですが、ボツが続きまして…。そこで林さんに「描いたことのないホラー描いてみたら?」と言われました。
もともと日本の昔話や伝承、信仰の歴史や神社巡りが好きだったので、生贄に関する物語を、と考えました。捧げものと引き換えに願いを叶えてもらう、といった要素はありきたりなので、少しだけ差別化できるルールとして「叶えてもらった願いは、自分の死とともに消失する」というものを添えました。読み切り版のオチはそこから逆算して製作しました。
連載版でも同じ要素を引き継いでいますが、「失われてしまう」ことが絶対にデメリットであるとは限りません。その契約が破滅となるか救いとなるかは登場人物次第です。読み切り版はホラーテイストでしたが、連載版では多くの人に読んでいただけるよう多種多様なお話を考えています。
ーー『アンテン様の腹の中』は超自然的な存在であるアンテン様による単純な善人救済の話ではなく、ダークファンタジー的な要素を含んでいるようにお見受けします。ストーリーを考えるうえで、こだわっている部分やここに注目してほしい、というポイントはありますか?
ストーリーのこだわりでは、毎回読後感を気にしています。同じ読み味にならないよう、ほっと安心するものもあれば、怖かったり切なくなるものもございます。人物に関しては、生まれてからどのようにして育ったか、何故いつこのような人格になったのか、という年表を自分の中で作成しております。物語を作る際は全て文章で書き出してから俯瞰し、小さな伏線を所々に組み込んでいく作り方をしています。小さなこだわりですが、気付いてくださる方がいらっしゃるようなので、とても嬉しいです。
今回Twitterで投稿した第3話は1ページ目の新聞でわかるように1993年が主な舞台です。時代に合わせた小物も、各エピソードごとに調べて描写しているので、ぜひ注目していただけたらと思います。
そしてこの作品の案内人であり、人々に神と呼ばれる「アンテン様」は、腹の内が読めない謎多きキャラクターです。常にニヤニヤした変な奴ですが、最終章では「アンテン様」がどのようにして生まれたのか、何のために人々と関わるのかを明かします。細かい言動に注目してもらえると、最後はより面白く読んでいただけるかと思います。
ーーTwitterで投稿された「おじいちゃんが、妻のために初恋の人のフリをする話」には多くの反響があったかと思います。数あるエピソードの中で、この話を投稿された理由があればお教えください。
普段、感想や反応は友人から教えていただくのですが、よく「アンテン様は怖そうなので読んでない」との声があるとお聞きしまして…。一度読んでいただいて、それで好みじゃない、というのは仕方がないと思えるのですが、そもそも読まれていないのは歯痒い思いでした。読み切り版ではホラー寄りでしたが、連載版の「アンテン様の腹の中」には、幸福な物語もあるのだということを知っていただくきっかけになれば、と思い反響の多かった3話をアップしました。
ーー現在単行本2巻まで発売されていらっしゃいますが、全編通して特に気に入っている、思い入れがあるエピソードがあればお教えください。
1話から全て思い入れがありますが、一つだけ挙げるとしたら2巻に収録されている6話『起き姫物語』ですかね。これは、自分の好きな昔話から着想を得て、時間をかけて構成したエピソードになります。
元ネタは鎌倉時代初期。戦乱の中、命を落とした姫とその赤子の悲しい物語がありました。そこに「アンテン様」が救いの手を差し伸べたら、どんな結末に変わるでしょうか。いずれ消え、忘れ去られていく命や物事に、人はどう立ち向かうでしょうか。本編で是非ご覧になっていただきたいです。
先日発売された2巻では「次巻に続く!」といった、前編で終わる引きはなく、綺麗に読み切ることができます。集めやすい巻数ですので、この機会にどうかお手に取っていただければと思います。「少年ジャンプ+」では隔週日曜日に更新しています。アプリからだと初回無料で全話読める上、どのエピソードからでも入ることができますので、何卒よろしくお願いします。
ーー応援してくれている読者やユーザーへのメッセージがあればお願いいたします。
読み切り版の頃から支えてくださっている読者の皆様、そして新しくファンになってくださった方々の応援の声のおかげで、日々頑張れます。読者の皆様のご期待に応えられるよう、丁寧に作ることを今後も心がけていきたいと思いますので、どうか引き続きご愛読いただけますと有難いです。
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