「ぐるナイ」『ゴチになります!』のルールを考察する/テレビお久しぶり#6

2022/07/08 21:01 配信

バラエティー コラム 連載

「テレビお久しぶり」(C)犬のかがやき

7年ぶりにテレビ番組を見るというライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は「ぐるぐるナインティナイン」(毎週木曜夜8:00-9:00、日本テレビ系)をチョイス。

『ゴチになります!』のルールを考察する


幼い頃から、ナインティナインに触れない生活を送ってきた。特に理由もなく、彼らの出ている番組をあまり見ずに育ったので、ナインティナインという芸人コンビには「矢部っちに、親戚にいてほしい」くらいの思い入れしかない。矢部っちには親戚にいてほしい。学校であったしょうもない話なんかをしても、彼は大口を開けて笑ってくれそうな印象がある。先生に怒られた話をしても、「うええ、そんなんで怒られるんや。ええやんな、別に」とこちらを救ってくれそうな魅力がある。

極めて表層的な矢部浩之の話は置いておいて、ぐるナイには、名物企画、というか、この企画以外なにかやってるのかどうかも知らないが、『ゴチになります!』というコーナーがある。芸人やタレントや国分太一が集まって、メシを食って、数字を言って、誰かが喜んで、誰かが悔しがるというコーナーである。出演メンバーの入れ替わりが毎回トレンドに上がるほどの人気っぷりだ。

この、『ゴチになります!』のルールが分からない。昔からずっと分からない。見たことがないのだから当然である。そのタイトルから、おそらく奢りを賭けた勝負なのであろうことは伺えるが、一体どうなれば負けで、どうなれば勝ちなのか、基本ルールの部分からまったく分からない。企画の趣旨を理解し、番組を楽しんでいる視聴者の方々は、一体どこでルールを知ったのだろう。見ていれば自然に分かるものなのだろうか。それとも、実はみんなもよく分かっていないのかもしれない。

ということで今回は、『ゴチになります!』のルールを考察していきたいと思う。今回視聴したのは、ぐるナイ6月30日(木)の放送回。『ゴチ』の謎を解き明かそうという気概のある方は、一緒に見て推理をしてほしい。それでは再生をする。テレビお久しぶりです。

まず冒頭。もしかしたらとは思ったが残念ながらルール説明は無く、「さあ、みなさんご存知の」と言わんばかりに番組がスタート。池田エライザの衣装が夏服に変わったことへの言及。てっきり中条あやみがいるものだと思ったら、池田エライザになっている…。どちらもメチャクチャ好きなのでかまわないが、やはり知らない間に世界は動いているものである。高杉真宙なんかもいたりする。国分太一の姿が見当たらない。ゴチって国分太一いなくなったのか…?代わりにと言っては失礼だが、増田貴久の姿がある。私の知らぬところで、壮絶なメンバー交代が行われたのだろう。『ゴチ』と聞いて想像する顔ぶれはナインティナインのふたりと、進行役の羽鳥慎一くらいである。あとノブがいる。ゴチにまで出ているのか、ノブ。

そして、羽鳥慎一によって今回は特別ルールであることが明かされる。なんでだよ!こちとら真剣に考察をしているんだ。特別ルールなど持ち出されちゃかなわんじゃないか、と思わず文句を吐く。今回はドボンゴチです。メニューの中に、設定金額に近い超高額メニューがありますという質素な説明だけで終わってしまい、まったく意味が分からないのだが、演者たちの納得加減を見るかぎり、新ルールというわけではなく、あくまで『ドボンゴチ』という一種の形態があるということなのだろう。それならば、考察に不足はない。

そうこうしていると、今回のゲストとして磯村勇斗が現れる。最近、いろんな映画で見かける売れっ子の彼だ。挨拶もそこそこに、彼の幼少期から現在までの食遍歴を再現するVTRが流れる。ひとつの番組の数分のくだりのためだけに、自分の再現VTRが作られる気持ちってどんなだろう。そんな彼は、今回の意気込みを聞かれて「絶対払いたくない!!」と答える。なるほど、やはり負けた人間が奢るという基本ルールは間違っていないようだ。

そして、銀座にあるポルトガル料理ヴィラモウラというお店が紹介される。今回の料理は、このお店のメニューから提供されるということなのだろう。へえ、ポルトガル料理っておいしそうだなーとまっとうに感動しながら見ていると、右上のテロップに”設定【  ?  】円”という表記があるのを見つける。なるほど、料理の値段を当てるのか…?しかし、「設定」とはどういう意味だろう…と思っていると、その【  ?  】に入る値段は16,000円であると公開される。なにが?設定金額16,000円って何?7人いるので、×7で自腹推定額は112,000円だという概算がなされる。なんで×7?自腹推定額って何?知らない数字を知らない数字で掛けて、知らない数字を出している。早くもお手上げである。

すっかり打ちひしがれていると、羽鳥慎一から今回のドボンゴチは一品だけではないということが明かされる。みんながうろたえているので、それは厳しい条件なのであろう。ドボンというくらいだから、それを引いたら終わりということなのだろうか。もしかすると、ひとつだけ泥と砂で作ったような料理があるのかもしれない。ドボンの意味するところは、なんとも不明瞭なままである。なんだよ、自腹推定額って…。

出演者たちが、メニューを見ながら一品ずつ注文を始める。これは何だろう、何の時間だろう…。『牛ホホ肉の赤ワイン煮 セトゥーバル風』を注文したノブは、その意図を問われ「これはドボンないんじゃないかと」と答えている。続けて、「牛ホホ肉でドボンは作れません」とも語る。半分冗談であろうが、料理名だけでドボンかそうでないかをある程度推理できるくらいには、この番組における”ドボン”の概念は知れ渡っているのだろうか。ドボンの正体について思いを馳せていると、池田エライザが『鹿児島県産本マグロのたたき モーリオセボーラ』を注文した意図として「マグロをたたいてあるから、料理の工程でドボンが発生することはないのかな」と話す。これに関してはマジで意味が分からない。冗談だとは思うのだが、「料理の工程でドボンが発生することはない」という尖った言語感覚によって、概念的な印象だったドボンという存在が、すっかり物理的なイメージを帯びてしまった。続く岡村隆史は、『牛ロースのポシュタカフェソース』をチョイスした理由として、「高かったらカフェのソースはかけない」と推理する。まるでアホな推理だが、やはり彼らは高額メニューを避けているということが分かった。

彼らの注文した料理が運ばれてくる。ここで驚いたのは、彼らは自分の注文した料理の見た目を知らなかったということ。目の前で自分の注文した『牛ホホ肉の赤ワイン煮 セトゥーバル風』にトリュフが添えられていくのを見たノブが「いらない!それいらないよ」とうろたえる。なるほど、見た目でなく、料理名だけで選択する必要があったのか。料理を食べたノブは、この料理を8,000円であると予想。まだまだ不明点は多いが、なんとなく流れは分かってきた。出演者たちが料理を食べ、感想を言い、金額を予想する。唯一、自分の料理がドボンであると予想した矢部浩之が、金額を12,000円であると予想した。やはり未だにドボンの意味するところがよく分からない。高級レストランには縁がないもので恐縮なのだが、”超高額”って12,000円程度なのか。もうちょっと、一皿40,000円とか50,000円とか、勝手にそれくらいのものを想像していた。

全員の予想が終わり、Switchのゲームで遊ぶ時間とかサウナグッズを紹介する時間とかを経て、『本日のスペシャルメニュー』という新たな要素が登場する。当然ながら、スペシャルメニューについての説明はない。さらに、「本日はドボンゴチですので、スペシャルメニューを食べるか食べないか、決めていただこうと思います」と羽鳥慎一が語る。これはイレギュラーなのだろう。勘弁してくれ。「一品目がドボンだなと思ったら、スペシャルを食べたらたぶんいっちゃうので、そう思う方は食べない、大丈夫そうだと思う方は食べてもいいし、食べないで他で調整してもいいし」とのことなのだが、ルール理解者には理解できても、私からすれば何を言っているのかサッパリ分からない。「スペシャルを食べたらたぶんいっちゃうので」、これの「いっちゃう」というのは、言なのか行なのか…。分からない…何だよ、自腹推定額って…。

そんなこんなで最後まで鑑賞してみたのだが、なるほど、設定金額の16,000円というのは、ピタリ16,000円を目指して注文するということなんですね。”自腹推定額”というのは、一人頭16,000円の支払いであると仮定した金額のことであると。ドボンというのは具体的にいくら以上、というのは決まっておらず、一瞬で目標金額に達してしまいかねないような金額のことを指している。なるほど。スペシャルメニューを注文するかしないか聞かれていたのも、一品目でドボンを注文してしまっていた場合、スペシャルメニューの値段によって16,000円のボーダーに「行っちゃう」可能性があったからであると。”他で調整”というのも、そのあとに小品をいくつか頼むパートがあるという、そういう意味だったのか…。謎がすべて解けました。面白い番組ですね。ちゃんと最後まで見れば理解できるようになっている。至極単純明快なルールである。ラスト、ドローンが止まったほうが最下位だとし、ドローン視点のカメラで演者の反応を撮るアイデアも抜群に面白い。誰だよ、ゴチのルールが分からないとか言ってた奴…見りゃわかるだろうが…。